ロイター通信によると、食品大手のネスレから消費財大手ユニリーバまで、世界最大級の広告主らの一部は、デジタル広告費の削減と関連業務の効率化のために、チャットGPTやダーリーに代表される生成人工知能ソフトウェアの利用を試験中だ。
▽「コストや時間を10分の1や20分の1に」
生成人工知能(generative artificial intelligence)は、従来型人工知能のようにデータを単に分類したり識別したりするのではなく、訓練にもとづいて、一見するとオリジナルに見えるテキストや画像、さらにはコンピューター・コードの作成を大幅に効率化する。
世界最大の広告代理店であるWPPのマーク・リードCEOは、ネスレ(Nestle)やモンデリーズ・インターナショナル(Mondelez International)と協力し、広告キャンペーンに生成人工知能を活用している、と話した。
各社の広告や販促部署では昨今、生成人工知能機能を活用することで、さまざまの商品をより安くかつより速く宣伝できるようにする方法の模索に注力している。
「生成人工知能を使えばコストや時間を10分の1や20分の1にできる」と話すリード氏は、「コマーシャルを撮影するためにアフリカまで撮影班を飛ばすより、生成人工知能によって仮想作成したほうが圧倒的に効率的だ」と強調した。
▽WPP、生成人工知能人材を育成中
WPPによると、中小企業らはマイクロサイトを使うことで、ソーシャル・メディアやそのほかのプラットフォームに投稿できる広告を生成人工知能で創作している。2000の店舗をフィーチャーした約13万の広告が作成され、ユーチューブとフェイスブックでこれまでに9400万ヴューを獲得している、とWPPは話した。
WPPは現在、「20代前半の生成人工知能見習い20人をロンドンで雇っている」「販促業務の未来に照準した学科を教えるオックスフォード大学と提携して人材を確保している」とリード氏は述べた。
▽ネスレのヨーグルト、制作費ゼロで70万ユーロ分の広告価値
生成人工知能技術を広告に活用する動きは2022年秋からある。オランダのライクス・ミュージアムの研究班は2022年9月8日に、バロック時代の画家ヨハネス・フェルメールの油絵「乳母」に隠されたオブジェクトを発見し、ネット上で話題になったことがあった。それから24時間も経たないうちに、WPPはオープンAIのダーリー(DALL-E)2を使って、ネスレのヨーグルトと乳製品ブランド「LaLaitiere(乳母)」(英語ではThe Milkmaidの意味)の広告をユーチューブに公開した。
その動画は短時間に1000回の再生を記録した。ネスレにもたらされたその「メディア価値(media value)」(同等の公共露出を生み出すために必要な広告コスト)は70万ユーロ(76万869ドル)と試算される。WPPによると、同コンテントの制作費はゼロだった。
▽ユニリーバ、商品説明コンテントを生成人工知能で作成
そのほか、石鹸やアイスクリームを含む400以上の世界的ブランドを持つユニリーバ(Unilever)は、小売業者らのウェブサイ向けに商品説明を書く独自の生成人工知能技術を構築している。
同社のヘアケア・ブランド「トレセメエ(TRESemme)」では、英国アマゾンのオンライン販売サイトの文章コンテント向けにテキスト生成ソフトウェアを使い、視覚コンテント向けには画像生成自動化ツールを使っている。
▽大企業の多くは慎重姿勢
ただ、多くの大企業では、セキュリティーや著作権侵害のリスク、偏見(偏向)を含む広告生成の危険性を警戒しており、生成人工知能を販促や広告作成に使うのに慎重だ。
生成人工知能は、インターネット上にある膨大な量のデータで学習することで、指示に沿ったコンテントを創作する。そのため、どのようなデータを訓練用に使ったかによって著作権に違反する可能性や差別的偏見を含むコンテントをつくる危険が当初から指摘されている。
▽専門家や学者らが議論するあいだに利用が広まる
それらの懸念については、主要国らの法律家や哲学者、政治家たちが議論を重ねている。しかし、広告主や広告代理店は生成人工知能技術をすでに使っている。
ネスレの「乳母」をめぐっては、著作権対象ではない古い画像に関するオープン・データ・ポリシーをライクス・ミュージアムが設けていることから、だれでも使うことができる、と広報担当者話した。
かたや、ユニリーバの場合、著作権や知的財産、プライバシー、データを知らずに侵害する可能性を払拭できない、とゴー・トゥ・マーケット(Go to Market)の技術担当副社長アーロン・ラジャンは指摘する。
(Gaean International Strategies, llc社提供)
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