シリーズ世界へ! YOLO⑦ セイシェル
エデンの園と呼ばれた島
文&写真/佐藤美玲(Text and photos by Mirei Sato)
- 2012年9月20日
世界一魅惑的なビーチ、アンス・スース・ダルジャン(Anse Source d’Argent)へは、自転車をとめて歩いていくしかない。
美しい砂浜は、巨大な花崗岩によってところどころ分断されている。崩れ落ちてきそうな岩の間をすり抜けたり、突き出した岩伝いに回り込んで腰まで海水に浸かったりしながら、ゆっくり進む。
生温いブルーの海水、足の裏にジャリッと沈み込む砂の感触、一歩踏み出すごとに見つかるユニークなサンゴのかけら…。美しいビーチというだけなら世界各地にあるだろうが、ここの魅力は岩だ。向きや色合いによってクシの歯やサメの腹のように見えて、何とも言えず個性的。
セイシェルの島のほとんどは、7億5千万年前から続く世界最古の中央海嶺系花崗岩でできている。「地球がまだ恐竜に支配され、一つにつながったスーパー大陸だった頃、セイシェルはその心臓部だった。火山の噴火か彗星の衝突で、海に沈んだ旧大陸の最高峰が、岩となって海面から顔を出している」という説を唱える人もいるとか。
地球の誕生を記憶する島——。エデンの園はそんなロマンもかきたてる。
◆ ◆ ◆
マへ、プラリン、ラディーグの3島は、飛行機やヘリでも移動できるが、フェリーで回るのが一般的。マヘからプラリンが45分、ラディーグへはさらに15分だ。
朝、ホテルに迎えに来たドライバーは、私が「朝ごはんを食べていないのでちょっと待ってて」と頼むと、いきなり険しい表情になった。「酔うからやめた方がいい」。小舟じゃあるまいし大げさな…。待たされるのが嫌なんだろう。そう思ったので、小さい菓子パンをコーヒーで流し込むだけにした。
朝一番のフェリーで、観光客は100人以上いた。甲板に向かうと、船員が「水がかかるから中へ入った方がいい」と注意しに来た。水しぶきぐらいで、これまた大げさだ。出発直前には船長が来て「気分が悪くなった時のために」と袋を配ったが、誰も手に取らないので隅に置いていった。
出港すると船尾へ移動。美しいマへ島の全景にカメラを向けたが、シャッターを切れたのは数枚だけ。トップスピードに乗った途端、船はガタゴト揺れるジェットコースターに変わった。荒れ狂う海をゆくマグロ漁船かと思うほど、波がバッサバッサとかかってくる。
慌てて船内の椅子を探し、手すりに掴まった。隣の男性は、目をつぶって祈り出す始末。前方で男の子がふらふらと立ち上がり、しっかり朝ご飯を食べてしまったのか、通路に吐いている。それを見て、大人たちも船長が置いていった袋に手を伸ばした。顔面蒼白で互いの胸に顔をうずめたままの新婚カップルもいた。
私はといえば、慣れてしまえば揺れもスリリング、いい土産話ができたと思えた。それもこれもドライバーのおかげだ。地元の人の忠告には、素直に謙虚に耳を傾けたほうがいい。
後で聞いたら、風が強く波が荒いのは5〜10月だけ。それ以外の季節は穏やかなクルーズが楽しめるそうだ。
それにしても、波間を見極めて舵取りする船長は相当な腕前だ。静まり返る観光客をよそに、通勤する地元の人たちは平然。ビールを立ち飲みしながら談笑する3人組と、最初から最後まで甲板の手すりにもたれて携帯電話で話し続けていた男の子は、すごかった。
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