シリーズアメリカ再発見⑱
“大漁”に大興奮! 南カリフォルニアでホエール・ウォッチング

文&写真/佐藤美玲(Text and photos by Mirei Sato)

 南カリフォルニアは今、ホエール・ウォッチングに最高の季節だ。12月から5月にかけて、パシフィック・グレイ・ホエール(太平洋コククジラ)が、アラスカの北・ベーリング海から、メキシコのバハ・カリフォルニア(カリフォルニア半島)をめざして、太平洋岸を南下する。

 そのクジラの大移動が、今年はスゴイことになっている。そう聞いて、1月中旬、「目撃」にでかけた。

白い斑点が特徴的、グレイ・ホエールの顔 Photo © Mirei Sato

白い斑点が特徴的、グレイ・ホエールの顔
Photo © Mirei Sato

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 ロサンゼルスの南、ロングビーチから出航するハーバー・ブリーズ社のホエール・ウォッチング・クルーズに乗り込んだ。暖冬のロサンゼルスでも特にいい天気で、気温は摂氏29度。風もない。ホエール・ウォッチングには最高のはず、と期待して乗船する。

 みな同じ算段なのだろう、船は満員で、甲板のいい場所はすぐに埋まった。ずいぶん本格的な双眼鏡や望遠レンズを持ち込んでいる人が多い。
 「本当に見れるかな?」「縁起悪いこと言ってちゃダメよ」なんていう会話が交わされる。こればかりは「運」に尽きる。みな期待半分、不安半分だ。

 嬉しいことに、ロングビーチ水族館から私たちの「教育係」として、ジョーさんが同乗。クジラに関する質問になんでも答えてくれる。
 天気がいいからクジラが見れる可能性も高いのではと思っていたが…。「関係ないですね。クジラは私たち人間と同じで、出かける時は出かけます。雨でも風でもね」とジョーさん。

 心配無用。港を出るや、前方正面に、見えた! 潮を吹くクジラの背が!

 グレイ・ホエールの潮吹き(blow)は「ハート形のよう」と表現される。プシュッ、プハッと、霧のような湯気のようなものが白く軽く立ちのぼる。
 スーッと伸び上がり、海面から顔がのぞいた。やわらかい目と、ボツボツした白い斑点。ちょっとニキビづらの、眠そうな顔だ。甲板にワーッと感動の声が広がった。

 「まだ始まったばかりです」。ジョーさんの掛け声で、クジラを残して船は進む。

潮を吹くグレイ・ホエール Photo © Mirei Sato

潮を吹くグレイ・ホエール
Photo © Mirei Sato

???

 水平線上に白いしぶきが幾つも上がっていた。小さな煙突が並んでいるかのようだ。クジラの群れか?

 「いや、イルカの大群ですっ!」とジョーさん。船は全速前進で水平線をめざす。

勢いよく跳ねるイルカ Photo © Mirei Sato

勢いよく跳ねるイルカ
Photo © Mirei Sato

 イルカも種の分類でいえばクジラの仲間なのだが、内心は、なんだイルカかぁ、どこでも見れそう…。と思っていたら大間違い。スゴイことになっていた。

 ざっと目算で200頭はいるだろう。ピチピチ、ジャブジャブ。白銀の波の合間から、黒光りするイルカが次々と躍り上がる。

 まだ泳ぎが下手な赤ちゃんイルカも、ひっくり返りそうになりながら盛大に水しぶきを上げている。水族館で人間が吹く笛で飛び跳ねるショーなんかとは、別次元だ。

飛び跳ねるイルカの大群 Photo © Mirei Sato

飛び跳ねるイルカの大群
Photo © Mirei Sato

 イルカたちは飛ぶように船を追いかけてくる。船長が、スピードを上げてガーッと船を旋回し始めた。後部にうねるような波の道筋ができる。その波にグググーッと飛び乗ったイルカたち、スイスイと、一緒に円を描く。

 「お父さん見てー。イルカがウェイクボードしているよー!」。子供たちが叫ぶ。

 頭の中で、ベンチャーズのエレキギターが流れ出した。ジョーさんも「こんな光景はめったに見られない」と大興奮。しばらくサーフィンに興じたイルカたち、突然一斉に、沖合の太陽に向かって全速で去っていった。

 港へ戻る途中、またグレイ・ホエールに遭遇した。プシューッと3〜4回息が上がり、ゆっくりと尾ひれ(fluke)が水面にあらわれる。「プレシャス!」。甲板でみな、ため息を漏らした。

尾ひれが見える瞬間が、ホエール・ウォッチングの醍醐味 Photo © Mirei Sato

尾ひれが見える瞬間が、ホエール・ウォッチングの醍醐味
Photo © Mirei Sato

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 大満足のクルーズを終えて、ランチョ・パロス・バーデスのビセンテ岬へ向かった。陸からグレイ・ホエールを観察するのにロサンゼルス近辺で最高の場所だ、と船上で聞いたからだ。

 全米鯨類研究協会(American Cetacean Society)の手助けで専門家たちがボランティアで、毎日目撃できたクジラの数を記録している。着いた時はもう夕暮れだったが、展望台には、20年以上クジラを観察しているジョイスさんを囲んで、十数人が双眼鏡を手に海を眺めていた。

 小さなボートとブイの間に、潮を吹くクジラが肉眼でも見えた。住宅地の岸にこんなに近いところで泳いでいるなんて、ビックリだ。

 グレイ・ホエールは、2〜3カ月かけてバハ・カリフォルニアの温暖なラグーンへ向かい、そこで妊娠と子育てを終えると、また北へ戻ってくる。その経路や生態には、まだ謎が多い。

 ビセンテ岬からは、昨年12月に観測史上最高の586頭のグレイ・ホエールが見えた。ジョイスさんが観測を始めた20年前には、1シーズンで300頭程度だったというから、相当増えている。

双眼鏡やカメラを手に真剣&大興奮のクルーズ客 Photo © Mirei Sato

双眼鏡やカメラを手に真剣&大興奮のクルーズ客
Photo © Mirei Sato

 クジラの尾ひれや顔の先っぽ、言ってみれば「パンチラ」程度の遭遇なのに、どうして私たちはこんなに心を動かされるのだろう?

 「きっとクジラがとても賢い、知的な生き物だからじゃないかしら。人間とは違うのに、すごく似ているところもあるし」とジョイスさんは言った。

 ジョイスさんは、バハ・カリフォルニアのラグーンで、グレイ・ホエールと顔を近づけて目を合わせた経験がある。「二度と忘れられない、特別なコネクションを感じた」そうだ。人なつこいグレイ・ホエールは、ボートのそばまできて、人間に顔をタッチさせることもあると聞く。

 こうなったらもう、クジラを追って私もバハの海へ南下してみるか!?

Let’s Go! Whale Watching

海から!

Harbor Breeze Cruises
100 Aquarium Way, Dock #2, Long Beach, CA 90802
800-900-8188 / 562-432-4900
http://www.whalewatchinginla.com/
www.2SeeWhales.com

ロングビーチ水族館の斜め前から出航する。11月から5月中旬まで、グレイ・ホエールのシーズン中は、ほぼ毎日12pmと3pmの2回催行。チケットは、一般35ドル、シニア30ドル、12歳以下25ドル、3歳以下無料。

陸から!

Point Vicente Interpretive Center
31501 Palos Verdes Drive West, Rancho Palos Verdes, CA 90275
310-377-5370
www.PalosVerdes.com/RPV

陸から観察するのに最高の、ビセンテ岬 Photo © Mirei Sato

陸から観察するのに最高の、ビセンテ岬
Photo © Mirei Sato

ロサンゼルス近郊トーランスの南、景勝地バロス・バーデス半島の突端にある、グレイ・ホエール観察の名所。12月から5月中旬までの毎日、日の出から日の入りまで、専門家がボランティアで常駐。掲示板に目撃数などを記入する。併設のミュージアム(毎日10am〜5pm)は、クジラや海洋生物に関する展示が充実。日本語のパンフレットもある。周辺では、週末などにガイドつきの自然観察ハイキングや灯台ツアーも行われている。

取材協力/Special thanks to Los Angeles Tourism and Convention Board, and Harbor Breeze Cruises

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佐藤美玲 (Mirei Sato)

佐藤美玲 (Mirei Sato)

ライタープロフィール

東京生まれ。子供の時に見たTVドラマ「Roots」に感化され、アメリカの黒人問題に対する興味を深める。日本女子大英文学科アメリカ研究卒業。朝日新聞記者を経て、1999年、大学院留学のため渡米。UCLAアメリカ黒人研究学部卒業・修士号。UMass-Amherst、UC-Berkeleyのアメリカ黒人研究学部・博士課程に在籍。黒人史と文化、メディアと人種の問題を研究。2007年からU.S. FrontLine誌編集記者。大統領選を含め、アメリカを深く広く取材する。

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