第43回 PSATとGPA

文&写真/福田恵子(Text and photo by Keiko Fukuda)

Photo © Keiko Fukuda

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 長男ノアが日本で暮らすことになり、1月から2月にかけて3週間、私も日本に滞在した。住民票の転入届けを出したり、健康保険に加入したり、銀行口座を開設したり、生活に必要な物を購入したりと毎日を慌ただしく過ごした後、ロサンゼルスの自宅に戻って来ると、ニナの「PSAT 8/9スコアレポート」なるものが届いていた。

 大学の合否を判定する材料となる試験SATとその準備試験であるPSATのシステムが、2016年から変更になることは聞いていた。確かエッセーがなくなって全体のスコアの構成が変わるはず。しかし、まだ中学を卒業していないニナがPSATを受験していたとはまったく気づかなかった。ノアと違って、ニナは何でも自分でさっさとやってしまう。

 PSAT 8/9とはその名の通り、8年生と9年生が受験するPSATらしい。現在8年のニナに感想を聞くと「9年生対象のテストでもあるから、ちょっと難しかった」と答えた。スコアレポートを見ると、720点満点の数学と同じく720点満点のリーディング、ライティングの英語から構成されており、満点は1440点。現時点のスコアで全米生徒の中でどれくらいの位置にいるかも示され、科目別に「もっとスキルアップが必要」「水準点に近い」「水準以上に到達」といった、スコアに対する評定も下されている。ニナの場合は「大学準備に向け順調」とのコメントが書き込まれていた。

 PSATの公式サイトに行くと、「この試験は生徒の大学進学のモチベーションを高めるためのもの。日頃学校で習ったこと、宿題に出たことが出題される」とあった。

成績維持が大学合格の鍵

 日本とアメリカ、どちらの大学受験がハードかという話が出ると、私は「日頃の努力を重ねて常に優秀な成績を維持していれば、それが実を結ぶのがアメリカの大学受験。日本ではたとえ高校の成績が悪くても、浪人して猛勉強すれば一発逆転もあり得る。しかし、アメリカでは成績の平均値を示すGPAが悪いとアプライできる大学が限られる。高校でGPAが悪かった人が大学を目指す場合、まずコミュニティーカレッジに通ってGPAを立て直してから4年制にトランスファーするしか方法がないと思う」との意見を言う。もちろん、日本の大学受験だって日頃の努力は必要だし、アメリカの受験では成績だけでなくSATでのスコアも重要視されるから、私の意見を短絡的だと思う人もいるかもしれない。

 アメリカの大学受験でいかに高校での成績維持が重要かを初めて知ったのは、10年近く前に現地のSAT対策塾の講師に取材した時だった。彼女は「SATのスコアを上げること以外に、まず生徒が心がけなければいけないのは成績の維持。大学の願書には10年生からの成績が明記される。当たり前のことだが、9年生までCやDのオンパレードだった生徒が、10年生になった途端にオールAに変身するなんてことは不可能だ。つまり、勉強とは地道な積み重ね。大学はその生徒が(大学に)入学した後に勉強に取り組むポテンシャルがあるかどうかをGPAで判断する。だから高いGPAを獲得し続けることが重要で、そのことを中学や小学校の時点から意識していなければならない」と語った。
 
今年の秋からハイスクールに進学するニナ。彼女は常に学校のサイトで自分の成績をチェックしている。親としては、このペースのまま、9年生以降も地道に努力を続けてほしいと願っている。ちなみに2016年、カリフォルニア州立大学の願書の数は、史上最多を記録したらしい。益々狭き門になっていく…。

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福田恵子 (Keiko Fukuda)

福田恵子 (Keiko Fukuda)

ライタープロフィール

東京の情報出版社勤務を経て1992年渡米。同年より在米日本語雑誌の編集職を2003年まで務める。独立してフリーライターとなってからは、人物インタビュー、アメリカ事情を中心に日米の雑誌に寄稿。執筆業の他にもコーディネーション、翻訳、ローカライゼーション、市場調査、在米日系企業の広報のアウトソーシングなどを手掛けながら母親業にも奮闘中。モットーは入社式で女性取締役のスピーチにあった「ビジネスにマイペースは許されない」。慌ただしく東奔西走する日々を続け、気づけば業界経験30年。

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