キャンパスの治安

キャンパスのあちらこちらに緊急事態を知らせる「エマージェンシー」ボタンが設置されている

今年に入ってからも全米各地で銃撃事件が発生し続けている。1月に起きたモントレーパークでの事件は衝撃的だった。世を恨んだ72歳の男がダンスホールで11人を射殺し、フリーウェイでトーランスまで南下してショッピングモールの駐車場に停めた車の中で自殺した。そこは日本食のグロッサリーやいわゆる日本の100円ショップがあるモールで、私の自宅からも車で10分ほどの身近なロケーションだった。私はそのニュースを見ていなかったのだが、ニナがLINEで「トーランスの事件見た?」と知らせてくれた。

私よりはるかに慎重な性格のニナは、事件のニュースに敏感だ。そして何より、大学のオンライン掲示板を頻繁にチェックし、キャンパス内に不審な人物が出没していないかを常に把握しようと努めているようだ。

大学のキャンパスは学びの場として、本来、開放的な場所だ。正規の大学生だけでなくエクステンションの学生や地域の人々、さらにイベントが開催されれば遠方から人が集まる。ニナが学ぶ大学の敷地は1500エーカーと巨大。たとえるなら東京ドーム130個分らしい。キャンパス内にショッピングモールが2カ所、大学の建物、学生が暮らす寮やアパート以外に住宅街や公園も共存しているため、キャンパス自体がまるで一つの独立した町なのだ。そこにはゲートなどないし、誰もが出入りできる。

ニナから聞いた「キャンパスでの危ない話」はいろいろある。キャンパス内を巡っているバスに突然ホームレスが乗り込んで来て、学生を殴ったこともあった。先日も講義を前に一人で歩いていたニナの後ろを「低身長のヒスパニック系の男」が追いかけてきたとか。彼女は走って振り切ったのだが、その後、図書館内で「低身長のヒスパニック系の男」が女子学生に付き纏い、卑猥な言葉を投げかけていたと掲示板に書き込みがあった。ニナは「絶対、あいつだ! 私を追いかけた男だ」と断定していた。

銃撃事件は一日に2件のペース

話は銃撃事件に戻る。今年2月には、ミシガン州立大学の罪のない3人の学生が、突然銃器を携えて教室に押し入った男によって貴重な命を奪われた。被害者の学生たちはまさにニナと同じ世代だ。ニュースに彼らの高校の卒業アルバムの写真が映し出された時、私はまるで子どもを失ったように激しく感情移入してしまった。

ニナの友達の友達がミシガン州立大学に通っているそうで、その友達の話によると「事件後のキャンパスは大騒ぎで2日間アパートにも戻れず、全体が閉鎖された」そうだ。逃げた犯人を確保するための措置だったのだろうが(その後容疑者は遺体で発見された)、それにしてもここまで治安が悪化してしまうと、大学のキャンパスを開かれたままにしておいて本当に大丈夫なのだろうかと不安しかない。

実はモントレーパークの事件の後、ニナがふとこんなことを言った。「教室には誰でも入ってこられるから、急にドアが開いて銃を持った人が私たちに銃口を向けたらと思うと怖くて仕方ない。教授が入ってきた時にドアをすぐ閉めなかったりすると、心の中で『すぐ閉めて!』と叫んでしまう」。彼女の恐怖の想像はカリフォルニアではなくミシガンの大学で現実のものとなってしまった。

2022年、アメリカで起きた銃撃事件は実に647件。ほぼ一日に2件近いペースで発生している。どうしたら止めることができるのか。銃を購入する人には、銃の訓練だけでなく、入念なバックグラウンドチェックと心理テストを課す必要があるのではないかと私は思う。

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福田恵子 (Keiko Fukuda)

福田恵子 (Keiko Fukuda)

ライタープロフィール

東京の情報出版社勤務を経て1992年渡米。同年より在米日本語雑誌の編集職を2003年まで務める。独立してフリーライターとなってからは、人物インタビュー、アメリカ事情を中心に日米の雑誌に寄稿。執筆業の他にもコーディネーション、翻訳、ローカライゼーション、市場調査、在米日系企業の広報のアウトソーシングなどを手掛けながら母親業にも奮闘中。モットーは入社式で女性取締役のスピーチにあった「ビジネスにマイペースは許されない」。慌ただしく東奔西走する日々を続け、気づけば業界経験30年。

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