混乱続く大統領令によるトランプの移民政策

文/ミチコ・ノーウィッキ(Text by Michiko Grace Nowicki)

 トランプ政権による移民、難民の制限処置により、国内外で強い反発が起きています。特に、イスラム圏7カ国からのアメリカ入国を一時的に禁止する発令は、シアトルの連邦地方裁判所により一時差し止め命令も出されたもので、皆さんもよくご存知だと思います。その後、連邦控訴裁判所が連邦地裁の差し止め判断を全会一致で支持したものの、司法省は控訴裁判所の判断を精査中であり、最高裁判所に上訴するのか選択肢を検討中としています。

 今回のコラムでは、これまで署名された大統領令に含まれる移民政策についてご説明します。まず、最初の大統領令には、国外追放の対象となる者の優先順位の変更が書かれています。従来のように、重罪の有罪判決や告訴の対象となった外国人犯罪者を国外追放するだけでなく、不法入国した者やオーバーステイをしてしまった外国人も、優先的に国外追放の手続き対象となるというものです。また、ICE(国土安全保障省の移民・関税執行局)の捜査官の数を1万人増加し、地元警察官はICEの捜査官に協力し活動するとしています。これにより、ICEの捜査官だけでなく、地元警察が不法移民の取締りを行い、ICEが到着するまで、地元警察により不法移民が拘束されることになります。

 2つめの大統領令では、国土安全保障省にて転用可能な資金を集め、メキシコとの国境に壁を建設するよう命じています。壁の建設には、約15~25億ドルかかると言われており、壁の建設費用だけでなく多くの国境パトロールの動員資金も必要となります。しかし、政府は現在の資金調達レベルで今年4月まで運用されなければならないため、転用可能な資金はおそらくないと言えるでしょう。また、この発令には、アメリカに2年以上滞在していない不法移民の国外追放の迅速化についても書かれています。

 最後に1月27日に発行された大統領令は、イスラム圏7カ国からの入国を一時的に90日間禁止するものであり、2月初旬に控訴裁判所が連邦地裁の一時差し止め判断を支持する判断が出されました。州政府は、一時的にでも大統領令による入国制限を再開することにより損害が生じると主張し、トランプ政権側はイスラム圏7カ国からの入国制限を正当化できる証拠を提示することができませんでした。この後、トランプ政権は入国拒否という手段ではなく、米国の不法移民の国外追放という動きを見せています。

 これらの大統領令の発行により世界中でも波紋が広がっていますが、これまでの大統領令は移民政策の始まりにすぎず、今後も大統領令や議会を通して更なる政策が生み出されることが予測されます。

※本コラムは顧客からの質問を一般的なケースに書き換えたものであり、読者への情報提供を目的としたものです。特定事例における法的アドバイスが必要な場合は、専門家に相談してください。

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ミチコ・ノーウィッキ (Michiko Nowicki)

ミチコ・ノーウィッキ (Michiko Nowicki)

ライタープロフィール

ウィリアム・S・リチャードソン・スクール・オブ・ロウ卒業。米国移民弁護士協会所属、米国弁護士協会所属、ハワイ州弁護士協会所属。日本居住歴19年。バイリンガル。

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