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海外教育Navi 第2回
〜読み聞かせのコツ〜〈後編〉
記事提供:『月刊 海外子女教育』(公益財団法人 海外子女教育振興財団)
- 2018年4月15日
海外勤務にともなう子育てや日本語教育には、親も子どもも苦労することが多いのが現状。そんな駐在員のご家族のために、赴任時・海外勤務中・帰任時によく聞くお悩みを、海外子女教育振興財団に所属するプロの相談員たちが一つひとつ解決すべくアドバイスをお届けします。
Q.幼児がいます。読み聞かせをしてもなかなか集中してくれません。どうしたらよいのでしょうか。
前回のコラムでは、①集中力と情報過多についてお伝えしました(前回記事へ)。今回はその続きをお話しします。
②集中力と年齢と絵本
お子さんの集中力が気になりはじめたのは何歳くらいでしょうか。1歳になりたてのお子さんが喜び勇んで歩き回るのを多動だなどとはいいません。これまた過多な情報から早すぎる段階で、発達障がいかどうかを杞憂する話も耳にします。
絵本の読み聞かせへの集中度で知能の発達を測ろうとするかたがいました。「2歳半の子どもに◯◯◯を読んだけれど、ちんぷんかんぷんのようだった。大丈夫でしょうか」というのです。一般的に大人でも集中力は長くて50分、小学低学年で15分。幼児はそれより長くはないでしょう。ここで読み聞かせの時間について考えてみましょう。
赤ちゃん向け絵本の『だるまさんが』(かがくいひろし作、ブロンズ新社)は通信教育「幼児コース」のAグループで配付されます。これを読み聞かせる時間は1分足らず。喜ぶ場面を速度を変えて読んだり、繰り返したりしても数分でしょう。
同じくDグループ(4歳児対象)で配本される『雨あめ』(ピーター・スピアー作、評論社)は文字のない絵本。親子や兄弟で会話が弾む絵本のようで、読み聞かせの時間はそれぞれのご家庭で異なるでしょう。
5歳から6歳対象の同Fグループ(6歳児対象)で配本される『さっちゃんのまほうのて』(たばたせいいち作、偕成社)や『かわいそうなぞう』(土家由岐雄作、金の星社)は障がいや戦争の話で、親が子どもの理解力を考慮しつつ意を決して読むようです。十分な対話が必要だと肯定的な報告をいくつもいただいています。
数例ですが、年齢により、絵本に使用されることば数にも違いがあります。また内容も表現方法も多種多様、親子の絵本とのかかわり方も集団で読む場合とは異なり、対話が自然に生まれる場合も多く千差万別です。子どもの集中が続く時間は、年齢もありますが個人差が大きく、さらに内容によって伸びたり縮んだりすることがわかります。
読んでもらう絵本と子どもの求めている精神的な欲求、「成長したい」という無意識の渇望、そのバランスによって、集中力の発現は違ってきます。娯楽性の強いものは飽きやすいですが、子どもは大きくなりたい生き物ですから、ちょっと難しい絵本にも挑戦して、繰り返し楽しんで周りの大人を驚かせることがあります。『せいめいのれきし』(ヴァージニア・リー・バートン作、岩波書店)を自分で自由に読みたいがためにひらがなを覚えてしまった年長さんがいます。彼は大きくなって宇宙物理学者になりました。
③好きな絵本 敬遠する絵本
海外子女教育振興財団の「幼児コース」は毎秋に配本リストを見直します。子どもたちの反応や海外を意識して「笑い」にも目配りします。多文化共生を意識して偏りにも気をつけつつ、反応が割れるものはじっくり様子を見ます。
「親は海外にいて、日本の文化紹介に興味を持ちますが、6歳年長の男児はまるで関心を示しません」「四季のない国にいるので、子どもたちが日本の季節行事に関心を持ち、家族の座右の本になっています」
さて、どの本でしょうか。Eグループ(5歳児対象)『しばわんこの和のこころ』(川浦良枝作、白泉社)です。
暗い色調の絵本や、怪獣やお化けが出てくる絵本に拒否反応を示す子どものこと、また長い話はぱらぱらとめくっただけで「字が多いからいや」という反応を示す子どものことを率直に書いてくださる場合もあります。ここでもまた、海外といってもどこにどのくらいお住まいか、生活文化の伝承をどう考えているか、敬遠する絵本の傾向はそのままにしておいてよいか等、お子さんがどのように育ってほしいか多様な視点での、絵本とのかかわりが問われてきます。
子どもといっしょに楽しむ
『パパは脳研究者…子どもを育てる脳科学』(池谷裕二著、クレヨンハウス)の著者は、4歳までにマシュマロ・テストに合格できる力をつけるのを目標の一つにして、娘さんの育児にかかわってきました。社会人として必要な能力を本人が自らの力で身につけるように導くために掲げた家庭教育の一貫した目標があります。それは理解力、対処力、忍耐力でした。池谷パパは娘さんに請われて『ぽぱーぺぽぴぱっぷ』(谷川俊太郎作、クレヨンハウス)を300回は読んだそうですよ。
絵本はたしかに生活を豊かにします。幼児期の子どもが絵本に集中するかどうかは「親自身が子どもに読み聞かせる時間をどれだけ楽しんでいるか」「絵本と子どもに集中して向き合っているか」にあると私は考えています。絵本は遊び。読み聞かせは人と人とをつなぎます。絵本の読み聞かせをどうぞお楽しみください。
お子さんの集中力は親の育児力と共に育っていきます。
大丈夫!
参考文献:『えほんのせかい こどものせかい』(松岡享子著、文春文庫)
児童文学者 宮地敏子(みやち としこ)
ニューヨーク補習授業校教諭、洗足学園短期大学幼児教育科教授、デリー大学東アジア研究科講師を経て、現在は国際幼児教育学会理事。海外子女教育振興財団の通信教育「幼児コース」の監修を担当。翻訳絵本に『やまあらしぼうやのクリスマス』『ぞうのマハギリ』、共著で花鳥風月をテーマにした友禅染絵本『はなともだち』『あいうえおつきさま』などがある。
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