海外教育Navi 第112回
〜発達が遅れ気味の小学生とともに海外赴任〜〈後編〉

Q.発達が遅れ気味の小学生の子どもを連れて初めて海外赴任をします。イギリスの現地校に通う予定ですが留意点を教えてください。

前回のコラムでは、渡航後の注意点についてお話ししました(前回記事へ)。今回は、海外生活の心構えと受けられるサポートについてお話しします。

(3) 保護者自身がサポートを得ることの重要性

ご家族にとって初めての海外赴任ということで、親御さんご自身も新しい環境への不安や心配が大きかったり、新しい生活への適応に時間がかかってしまうのは当然です。些細なことに思うかもしれませんが、スーパーや薬局がどこにあって、子ども用品はどこでそろえればいいのかといった地域の情報や、困ったときに頼りになる人や機関をしっかりと持っておくことは、親御さんが安心してお子さんをサポートしていくために非常に重要な要素になってきます。

日常生活に見通しや予測がつかず、親御さんが生活に不安感を抱えている場合には、お子さんもいっしょに揺れてしまいやすくなり、それを見ることで親御さん自身がさらに不安になったり、自信の喪失につながったりしてしまうケースも少なくありません。

また語学に自信がない場合には、ちょっとした外出や学校とのやり取りに苦手意識や必要以上の挫折感や無力感を持ってしまったりすることも起こり得ます。

こうしたときは、日本人のサポートネットワークとつながることが非常に有益なことも多いです。はじめにあまり無理をしないことはとても重要です。

渡英直後は親子共々、不安が強く出やすい時期でもありますので、そうしたときはまずは日本人学校で多くのネットワークや地域情報を確保することも一つの選択肢かもしれません。また現地校を選んだ場合も、言語的に不安があれば通訳などを積極的に使い、サポートを得ることもよいと思います。イギリスでは通訳を用意してほしいというと、ほとんどの場合はそうした状況を学校が整えてくれることが多いです。また有料になりますが、さまざまな生活場面で通訳として手伝ってくださる人材を探すのも大きな都市ではそれほど難しくない環境です。

現地の学校は日本とは違い、自分から発信しないとほとんどサポートが回ってこないというのも事実で、お子さんの状況を聞いたり、改善してほしい点があったりする場合には積極的に学校とコミュニケーションを取ることが大切になってきます。

お子さんの発達の特徴を事前にわかっていることは、大きな強みになります。自分のお子さんに提供してほしいサポートや、専門的なケアを紹介してほしいという希望がある場合には、こちらからの粘り強いアピールが重要になります。日本では「ここまでしたら、しつこいかな」と思うくらいのアピールが、イギリスではちょうどよいことも多いので、少しマインドを切りかえていく必要もあるかもしれません。

ただ、具体的な子どもの支援や、発達へのサポートについては、どうやって対応したらいいのかわからず心配になることもあるかと思います。そんなときには、地域でサポートしてくれる専門家や同じ経験をしている仲間からの情報を得ることが大きな助けになります。最近では、お子さんの発達に心配のある親御さんの日本人のピア(仲間)のグループもありますので、そうした情報を探してみることも有益です。

まずは親御さんが安心して毎日の生活に安全や自信を感じられる環境を確保することが、異文化のなかで奮闘している子どもの支援をするうえで非常に重要になってきます。お子さんが上手に周囲のサポートを得ることができるようになるためには、親御さん自身がまずは自分へのサポートを探して、大いに利用することが先決です。

大人も子どもも、安心して楽しんでいるときにいちばん学習が進み、本来の能力を伸ばすことができます。ぜひお子さんのためにも、親御さん自身がまずは海外での生活を楽しめるような準備をして、ご自身へのケアを十分に用意することも忘れないようにしていただければと思います。

今回の相談員
早稲田大学社会的養育研究所客員研究員
臨床心理士、公認心理師、博士(心理学)
御園生 直美

白百合女子大学発達心理学研究室研究助手(助教)を経て、2009年よりThe Tavistock & Portman NHSに留学、リサーチアシスタントなどを経て現職。おもに発達障害のある子どもや親への支援やガイダンス、子育てに困難を抱える親や、里親などの社会的養護の子どもの支援を専門にしている。現在もロンドン在住でスクールカウンセラー、日本人の親子支援、子どもの養育に関係する研究を行っている。

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公益財団法人 海外子女教育振興財団 (Japan Overseas Educational Services)

公益財団法人 海外子女教育振興財団 (Japan Overseas Educational Services)

ライタープロフィール

昭和46年(1971)1月、外務省・文部省(現・文部科学省)共管の財団法人として、海外子女教育振興財団(JOES)が設立。日本の経済活動の国際化にともない重要な課題となっている、日本人駐在員が帯同する子どもたちの教育サポートへの取り組みを始める。平成23年(2011)4月には内閣府の認定を受け、公益財団法人へと移行。新たな一歩を踏み出した。現在、海外に在住している義務教育年齢の子どもたちは約8万4000人。JOESは、海外進出企業・団体・帰国子女受入校の互助組織、すなわち良きパートナーとして、持てる機能を十分に発揮し、その使命を果たしてきた。

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