海外教育Navi 第1回
〜読み聞かせのコツ〜〈前編〉

記事提供:『月刊 海外子女教育』(公益財団法人 海外子女教育振興財団)

海外勤務にともなう子育てや日本語教育には、親も子どもも苦労することが多いのが現状。そんな駐在員のご家族のために、赴任時・海外勤務中・帰任時によく聞くお悩みを、海外子女教育振興財団に所属するプロの相談員たちが一つひとつ解決すべくアドバイスをお届けします。

Q.幼児がいます。読み聞かせをしてもなかなか集中してくれません。どうしたらよいのでしょうか。

「幼児コース」のこと

海外子女教育振興財団の通信教育「幼児コース」では、海外で育つお子さんが読み聞かせを通して日本語に楽しく触れてもらうため、定期的に絵本の配付サービスをしています。

絵本といっしょに、絵を描いたり簡単な工作をしたりできる「チャレンジシート」も入っています。そのシートには、配本された絵本についてお子さんがどんな反応をしたか、また読み聞かせをして感じたことなどを自由に記入する欄があります(*1)。そのなかには今回のご相談のような不安や悩みも見られます。いくつかご紹介しましょう。

・今回の配本の◯◯◯は喜びましたが△△△は絵が暗いのか「読んで」と持ってきません。
・興味が集中しません。
・ぐずって先が読めないときがあります。
・英語に慣れ、日本語の絵本は難しく感じるのか聞きません。
・読み聞かせの最中の質問にはどう答えたらよいですか。

ご相談の「読み聞かせに集中しない」という背景には多様な問題が含まれているようです。

① 集中しないことをなぜ親はそんなに心配するのでしょう。
② お子さんが落ち着いて聞かないのは内容がわからないから?
③ お子さんには絵本の好き嫌いがありますか?

①集中力と情報過多

育児に関する情報から「よい子」には集中力があるとステレオタイプ的に受け取り、集中しないというのは自制心が育っていないからだと心配になることも多いようです。しかも絵本の読み聞かせは情緒面、知的な面共に幼児期の育ちには大切だといわれています。さらに海外で子どもの日本語の順調な習熟を願う親たちは余計に不安になります。

我慢できるという自制心の発達を調べるのに「マシュマロ・テスト」という実験を4歳の子どもたちにした人がいます(*2)。マシュマロなどのお菓子を用意して「15分間我慢したら、もう1個あげる」と言って、何もない部屋に子どもをひとりにして経過を見るというものです。

この退屈な状況で目の前のお菓子を我慢し、2個得た4歳児はどのくらいいると思いますか。約30パーセントだったそうです。そして、この合格者たちは大人になっても好ましい人生を送るということが数十年にわたる追跡調査から分かっています。幼児期に獲得する自制心が一生にわたって利くというのです。

親たちは読み聞かせをしているのに立ち歩いたり、ほかの遊びをしたり、目先の楽しさを優先したりする我が子に対し、読書で将来得られる価値の方が大いに気になるのかもしれません。ご安心ください。マシュマロ・テストの生みの親であるW・ミシェルは、この自制心は4歳以降も着実に育てられるということを多くの実践例で示しています。

それにしても近年乳幼児期の保育・教育が個人の将来のみならず、社会の安定や経済発展にも重要だとする報告が次々と公表されてきています。ノーベル経済学賞受賞者のJ・ヘックマンは将来生きていくうえで重要なのは、IQや学力、記憶力といった計測できる認知力ではなく、思いやりや意志力、忍耐力、社交性、協調性など、非認知力の土台を幼児期に養成することだとエビデンスつきで発表しました(*3)。

OECD(経済協力開発機構)の保育白書二〇一七年度版でも乳幼児期の保育・教育の強化が必要だと記しています。

こうした世界の思潮で繰り返される乳幼児期の重要性は、知らず知らずのうちに若い親たちに過重な圧力をかけているようにも思えます。もっと自然に、もっと自由にと子どもの自主性を重んじたい親にしてみると、情報に翻弄される自分自身と戦うことにもなりかねません。

子どもが育つのに寄り添うかけがえのない喜びよりも、子育ての不安が先行しているように感じる、今回の質問です。

絵本に集中しないのは、自制心がないからだなどと短絡的に考えないでください。絵本を聴くという集中力は〈いま、ここ〉を生きる子どもの、日々の活動のほんの一部なのだから、子どもの生活全体を観るゆとりを親は忘れないでほしいと切望します。

「第2回 〜読み聞かせのコツ〜〈後編〉」を読む。

〔注釈〕
*1 「幼児コース」では「チャレンジシート」にご記入いただいたことに対して、通信教育担当の先生が丁寧にコメントをつけてお返ししています。*2 『マシュマロ・テスト…成功する子・しない子』(ウォルター・ミシェル著、ハヤカワノンフィクション文庫)

*3 『幼児教育の経済学』(ジェームズ・J・ヘックマン著、東洋経済新報社)

今回の相談員
児童文学者 宮地敏子(みやち としこ)
ニューヨーク補習授業校教諭、洗足学園短期大学幼児教育科教授、デリー大学東アジア研究科講師を経て、現在は国際幼児教育学会理事。海外子女教育振興財団の通信教育「幼児コース」の監修を担当。翻訳絵本に『やまあらしぼうやのクリスマス』『ぞうのマハギリ』、共著で花鳥風月をテーマにした友禅染絵本『はなともだち』『あいうえおつきさま』などがある。

この記事が気に入りましたか?

US FrontLineは毎日アメリカの最新情報を日本語でお届けします

公益財団法人 海外子女教育振興財団 (Japan Overseas Educational Services)

公益財団法人 海外子女教育振興財団 (Japan Overseas Educational Services)

ライタープロフィール

昭和46年(1971)1月、外務省・文部省(現・文部科学省)共管の財団法人として、海外子女教育振興財団(JOES)が設立。日本の経済活動の国際化にともない重要な課題となっている、日本人駐在員が帯同する子どもたちの教育サポートへの取り組みを始める。平成23年(2011)4月には内閣府の認定を受け、公益財団法人へと移行。新たな一歩を踏み出した。現在、海外に在住している義務教育年齢の子どもたちは約7万9000人。JOESは、海外進出企業・団体・帰国子女受入校の互助組織、すなわち良きパートナーとして、持てる機能を十分に発揮し、その使命を果たしてきた。

この著者の最新の記事

関連記事

ページ上部へ戻る