専門家に聞く
帰国生受験の傾向と準備

Text by Keiko Fukuda(SAPIX 国際教育センター、駿台国際教育センター) Haruna Saito(ena国際部)

駐在家庭の帰国にともなう子女の日本での受験、またアメリカ生まれであっても日本の大学への入学を希望する子女のための受験準備をテーマに、親として知っておきたい受験の現状と今後の傾向、今から始めるべき対策について取材した。

中学受験
Junior High School

受験生に求められるもの

一部の国公立・私立中学校では、何らかの形で帰国生を対象とした入学試験を実施している。帰国生入試の導入校は、首都圏だけで約60校にもなる。帰国生の要件は、募集する中学校によってさまざま。比較的多い要件について、SAPIX国際教育センターの島村幸明さんは次のように語る。「海外滞在期間が1年ないし2年以上、日本に帰国後2年ないし3年以内といった要件が多いです。なかには単に『海外在留経験のある者』や『帰国後の期間は問わない』といった条件を設けている中学校もあります」。

では、帰国生を受け入れる日本の中学校は、どのような生徒を求めているのだろうか。「試験教科に英語が課される場合もあることから、帰国生の持つ多様なバックグラウンドや、高い英語コミュニケーション力、帰国生と一般国内生が交流することで生まれる効果を期待していると考えられます。ただし、受験生側が注意しなくてはならないのは、英語以外の教科の学習も、たとえ試験教科になかったとしても長い目で見たら必要になるということです。入学後に席を並べる多くの同級生は、4教科(算数、国語、理科、社会)を学習してきた日本の国内生で、入学後の授業は国内生の学力水準をもとに行われます。さらに6年後には大学受験をする可能性があることも踏まえ、国内生に引けを取らないだけの学習を積み重ねておくことが大切です」と島村さん。

では、果たして学校側が期待する「高い英語力」とはどれくらいのレベルなのだろうか。SAPIX国際教育センターの小森慎一さんは「中学受験の場合、英検2級保持者の帰国生受験の合格率は約半分、準1級で70%」と回答。つまり、準1級以上の取得が望ましいとされる。

ここ数年の入試傾向

「一般生入試においても、試験教科として英語を導入する学校の割合が高まっています。首都圏の私立中学校の一般生入試で何らかの形で英語を導入する学校の数は、2014年度入試では20校弱だったところが、2018年度入試では120校ほどに上っています。首都圏の国・私立中学校の数は約300校あり、首都圏全体の3分の1を超える状況です。背景には、2020年から全面実施が予定されている次期学習指導要領の改訂があると考えられます。これにより、小学5・6年生では英語が週2コマの教科として扱われ、教科書を使用し、成績として評価されます。つまり、帰国生についても以前に比べて一般生入試を受験しやすい環境が整いつつあるのです。その結果、帰国生入試と一般生入試を併願した中学受験が増えています。一方で、トップクラスの難関校については一般生入試での英語の導入例は少ないのが現状です。引き続き、人気校における帰国生入試の難化と、一般生入試での英語導入の傾向が続くと見込まれます」(SAPIX国際教育センターの島村さん)

学校選びのコツ

島村さんは志望校選定の要素について、教育理念、大学進学実績、口コミ・評判、家からの距離・通学経路、男子校・女子校・共学校・附属校、宗教的な背景(ミッション系など)、校風・在校生の様子、制服、ブランド、偏差値を挙げ、もっとも重要なものは「教育理念」だと断言する。

「どのような理念のもとに学校の先生が生徒を指導しているのか、学校説明会や文化祭などに赴いて確認することをおすすめします。海外にいるため学校説明会などになかなか参加できない場合は、ホームページで学校の沿革、創立の思い、校長からのメッセージなどを確認するところから、学校選びをスタートさせると良いでしょう。 クチコミ・評判については注意が必要です。特にネットのクチコミ情報はそのまま信用することはできません。良くてもせいぜい一個人の体験に基づく感想に過ぎず、多くの場合は体験ですらないことがほとんど。また、知人から聞いた情報だとしても、あくまで個人の主観的な感想であること、そのまま自分のこどもに当てはまるとは限らないことに留意が必要です」

また、「ブランドによる学校選びなどもってのほか」かというと、実はそうでもないと島村さんは語る。「ここでのブランドとは、世間的な評価ではなく『親も子も満足して通える学校かどうか』『卒業した後も誇りに思える学校かどうか』という意味です。自身の母校に我が子も進学させたいとお考えになる保護者は多く、こういった観点からの学校選びも一つの在り方です」。

以前は「帰国生入試は一般生入試に比べて易しいから有利」と言われた時期もあったが、現在は、少なくとも人気校についてはそうともいえない状況になっていると島村さん。「実際のところ、同一の学校について、帰国生入試で合格した生徒の平均偏差値と一般生入試で合格した生徒の平均偏差値を比較した場合にあまり変わらないことや、学校によっては帰国生入試の方が高いケースが、特に人気校で多く見られます。これは、募集定員が少ない一部の人気校に全世界から受験生が殺到することに加え、早期帰国生の存在があるためです。早期帰国生とは、小学4年生くらいまでに帰国し、一般受験生として4教科の受験勉強をこなしたうえで、受験資格を生かして帰国生入試にも参入する受験生を指します。つまり、帰国生入試のライバルは世界のみならず、日本国内にも多数いるということです」。

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