メンタリング? コーチング?

読者の皆様のなかにも、さまざまなレベルの管理職に就いておられる方がたくさんいらっしゃると思います。そんな管理職の方々が常にぶつかるのが、「いかに部下を導いていくか」という課題。皆様はどう対応されていますか?

巷でよく聞くのが「メンタリング」。メンター(支援者)がメンティー(被支援者)に向けて指導や助言を提供し、メンティーの成長を後援する仕組みです。私もかつてはこのメンタリングを活用し、日々の業務へ生かそうとしていました。

そんななかで学んだのが、メンタリングとはまた違う、「コーチング」という手法です。恥ずかしながらメンタリングとコーチングの違いについてよく理解しておらず、ほぼ同じだと思っていたのですが、実はまったく違うものでした。

コーチングとは、相手へ指導や助言をするのではなく、「答えはみずからの内にあるので、そのアイデアや解決法にみずから気づくよう、自発的な行動を促す」手法だそうです。確かに、言われてやるよりもみずからやろうと思った方がやる気も出るし、楽しさを見出しやすいですよね。

私は学生時代、長距離走が大嫌いだったのですが、体育の授業の一環でやるしかありませんでした。とにかく苦痛だったのを今でも覚えています。ですがこの年になって、健康管理の目的でジョギングを始めると、「走るって楽しい。いずれハーフマラソンに挑戦しようかな」と思うようになりました。当時の自分に伝えたら卒倒するでしょう。やはり、言われて渋々やるのとみずから一念発起してやるのでは心構えも異なりますし、結果もまったく違うものになるでしょう。

もちろんメンタリングを否定しているわけではありません。問題解決のための的確な助言を貰えると、相手側はなるほどとなり、その後の仕事も進めやすくなります。ただその一方で、助言の仕方によっては「上から目線で言われるのが嫌」「自分を否定されている」と不快に感じる人もいるようです。

もし次回あなたが部下を指導する機会があったら、すぐに助言をする前に、「この人の内から何が引き出せるだろう」と考えながら会話してはいかがでしょうか。

私の部下で、非常に怒りっぽい人がいました(Aさんとします)。Aさんは仕事はできるのですが、意見の相違などがあるとすぐキレるタイプ。当然、ほかの社員とぶつかることも多く、「Aさんの態度は困る」といった苦情がたびたび来ていました。私はAさんと個別面談をすることにしました。

「実はね……」と話を始めた途端、みるみるAさんの表情が怒りに歪み、これでもかといった不満と反論が滝のように流れ出てきたのです。ここでAさんを差し止め、まさしくその態度について言及し指導することもできましたが、そのままAさんの言い分を聞くことにしました(Aさんのあまりの怒りのパワーに圧倒されてしまったということもありますが)。

5分ほどたった後でしょうか。ひとしきりAさんがみずからの思いを吐露したあと、今度はうっすら目に涙を浮かべ、「ごめんなさい」と言ってきたのです。Aさん曰く、「自分の態度が問題なのは十分理解しており、改善しようと日々格闘している。それでも結果が出せず、毎日自己嫌悪に陥っている」とのことでした。

私はまさかAさんの胸中でそんな葛藤があったなんて知らず、驚いてしまいました。その後Aさんは、「迷惑をかけて申し訳ない。今後も改善努力をするので、温かい目で見守ってほしい」と締めくくりました。

私は、Aさんが心の内を開いてくれたのを嬉しく思うとともに、上辺だけを見て「Aさんは問題児だ、何も分かっていない。指導せねば」と決めつけていた自分を恥ずかしく思いました。もしここで、私がAさんに指導する形でああしろこうしろと言っていたら、おそらく会話はこのように進まなかったでしょう。この面談を通して、相手の話を聞くこと、そして相手の内側を引き出すことの重要さを再認識しました。

答えはみずからにある。それをうまく引き出すような手法を、今後積極的に取り入れてみてはいかがでしょうか?

参考文献:
猪俣恭子著 「女性のためのリーダーシップ術」(経営者新書)

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北村祐子 (Yuko Kitamura)

北村祐子 (Yuko Kitamura)

ライタープロフィール

在米23年。津田塾大学を卒業後に渡米し、ルイジアナ大学でMBAを取得後、テキサス州ダラスにある現在の会社で勤務すること20年目。ディレクターとして半導体関係の部品サプライチェーン業務に関わるかたわら、アメリカで働く日本人女性を応援しようと日々模索中。モットーは、「鳴かぬなら 鳴かせてみせよう ホトトギス」。

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