シリーズアメリカ再発見⑫ 南北戦争150周年
ゲティスバーグ~モンティチェロ 霊場街道をゆく

文&写真/佐藤美玲(Text and photos by Mirei Sato)

 

トーマス・ジェファーソンの屋敷、West Frontの眺め © Thomas Jefferson Foundation at Monticello, photograph by Mary Porter

トーマス・ジェファーソンの屋敷、West Frontの眺め
© Thomas Jefferson Foundation at Monticello, photograph by Mary Porter

To Monticello
モンティチェロへ

 バージニアはどの州よりも多く大統領を輩出している。44人のうち8人がバージニア生まれだ。初代ジョージ・ワシントンから5代目までは、ジョン・アダムズを除いて、バージニア出身者が独占した。

 オレンジからシャーロッツビルまでの数十マイルには、「建国の父」(Founding Fathers)に名が挙がる2人の大統領の邸宅がある。トーマス・ジェファーソン(在任期間1801~09)と、ジェームズ・マディソン(同1809~17)だ。

 マディソンの邸宅モンペリエは、8000エーカーもの土地にある。人民が統治する政治、権力の監視、三権分立。マディソンはここで近代民主国家の基礎を構想し、合衆国憲法を草稿した。

 独立宣言を起草したジェファーソンの邸宅モンティチェロは、ユネスコの世界遺産に指定されている。建築や農業、園芸に対する造形が深かったジェファーソンは、自分で屋敷を設計し、ハーブやワインをつくり育てた。

 2人とも、大勢の奴隷を所有する裕福なプランテーションで生まれ育った。今のように政治家が高給を得る時代ではないから、ジェファーソンもマディソンも大統領を退いた後の晩年は多額の借金を抱えたという。しかし、そこに至るまでの富の蓄積と優雅な暮らしは、奴隷制に支えられたものだった。新しい民主国家を追求した2人だが、奴隷は1人も解放しなかった。ジェファーソンに至っては、奴隷のサリー・ヘミングスに4人の子供を産ませていたことが分かっている。

展示の一部 Photo: Richard Walker, courtesy of The Montpelier Foundation.

展示の一部
Photo: Richard Walker, courtesy of The Montpelier Foundation.


広大なモンペリエ。馬車で回れる Photo © Mirei Sato

広大なモンペリエ。馬車で回れる
Photo © Mirei Sato


ジェームズ・マディソンの屋敷 Photo: Kenneth M. Wyner, courtesy of The Montpelier Foundation.

ジェームズ・マディソンの屋敷モンペリエ
Photo: Kenneth M. Wyner, courtesy of The Montpelier Foundation.


 
 
~旅を終えて~

 「アメリカには歴史がない」と言う人がいるけれど、私はそれは違うと思う。歴史とは、年表の長さで決まるものではないからだ。

 「新しい国家が生まれるために古い奴隷制度とその精神は死なねばならない」。逃亡奴隷で、黒人と女性の解放運動に人生を捧げたソジョーナー・トゥルースの言葉が、ゲティスバーグのビジターセンターに展示されていた。

 若い国とはいえ、南北戦争勃発時のアメリカは、すでに入植から200年以上が経っていた。奴隷制度は形を変えながら、それだけ深く根を張っていたのだ。自由と平等は万人のものなのか、アメリカ人とは誰なのか――。建国の矛盾に対する厳しい問いかけに、答えを先送りにしてきたツケが、国家分裂の危機という形で噴出した。

 多くの黒人が南部を去り、北軍に志願して戦った。62万人の死者を出して、400万人の奴隷が解放された。しかし自由は保障されるのか、負けた南部はどうなるのか。新しい問いへの答えは、また別の時代に別の形で多くの犠牲を払って実現されねばならなかった。

 リンカーンのゲティスバーグの演説は、達成感に満ちた勝利演説ではない。まだ戦争は終わっていなかったし、結局リンカーンは暗殺され、戦後南部の再建と人種統合の試み(Reconstruction)は失敗した。

 でもだからこそ名演説として愛され、今もよく引用されて聞く人を奮い立たせるのだろう。アメリカはまだ道半ば。自由と平等は実現の途上だから。

 「変わることが良いか悪いかは分からない。しかし変化なしには、進歩もない」。そう信じるアメリカの精神は、今も脈々と続いている。旅を終えてそう思った。
 

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