クリニカルソーシャルワーカー
坂本 安子

文/福田恵子 (Text by Keiko Fukuda)

 高度な資格や専門知識、特殊技能が求められるスペシャリスト。手に職をつけて、アメリカ社会を生き抜くサバイバー。それがたくましき「専門職」の人生だ。「天職」をつかみ、アメリカで活躍する人たちに、その仕事を選んだ理由や、専門職の魅力、やりがいについて聞いた。

「日本の浪人生を教えていた英語講師時代 人の役に立ちたいという意識芽生えた」

 1979年に設立され、翌80年にサービスを開始したリトル東京サービスセンター(以下LTSC)には、設立当初から参加しています。当センターは、ロサンゼルス郡の在住者のためのソーシャルサービスを提供する団体で、当初は3人のスタッフによる英語と日本語のバイリンガルのサービスとして始めましたが、今や、韓国語、広東語、北京語、ベトナム語、スペイン語にも対応しています。スタッフはフルタイムとパートタイムをあわせると150名にまで成長しました。

 現在はソーシャルサービス部ディレクターとして、所属するソーシャルワーカーを管轄する立場ですが、なぜ「人の手伝いをする」という職業に就きたいと思ったかというと、そのきっかけは勤務先だった福島の予備校時代にさかのぼります。私が英語の講師として教えていたのは、たまたま高校受験に失敗した浪人生たち。彼らを見ていて感じたのが、本来は青春を謳歌したい年頃なのに、すごく落ち込んでいて、希望を失っているということでした。何とか彼らの力になれないだろうかと考え続けた結果、3年で予備校の仕事を辞めて、大学の社会学科に入学し直したのです。社会福祉を勉強してケースワーカーになるのが目的でした。卒業後は大学教授に推薦された都内の神経内科に就職しました。私はそこでケースワーカーとして、入院患者と外来患者のお世話をしました。経営者だった精神科医の先生が本当に素晴らしく、患者との接し方に思いやりとパッションを感じました。1年半くらい働いたところで、結婚してアメリカに来ることになりました。当時は辞めたくなくて、言葉や文化が違うアメリカで同じような仕事ができるのだろうかと心配でした。

 ロサンゼルスに来た直後は旅行会社で働き、1978年、念願のケースマネージャーとしてオリエンタルサービスセンターという組織に就職しました。本当にやりたかった仕事を遂にアメリカでも始めることができました。

DV被害者の元クライアントに再会 「あなたのおかげで今がある」と感謝

 その後、LTSC設立に参加しましたが、最初の頃のクライアントは日系一世の高齢者や新一世の家族が多かったです。日本語しかできないために必要な手続きができずに福祉のベネフィットを切られてしまったクライアントの代弁を行いました。代弁するからには、福祉局、時には警察や裁判所にまで出かけていくこともありました。初めの頃は、アメリカ的に「権利を主張する」ということに慣れていなくて、自分に自信がないためにクライアントに迷惑をかけていたと思います。

 この仕事をするからには関係各所との連携、ネットワークが非常に重要です。私は「村」という表現をよく使うのですが、クライアントを囲んで村のさまざまな役割の人が恊働して問題解決にあたるというイメージです。

 1988年にはクリニカルソーシャルワーカーの資格を取得しました。LTSCの上司の理解を得てパートタイムにしてもらい、カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)の大学院に通いました。死にものぐるいで勉強して、修士号を取得、その後、州認可のソーシャルワーカーについて3200時間のサービス時間を終えて受験資格を得て合格しました。資格を取得したことで自分が携われる仕事の範囲がぐっと広がりました。

 ドメスティックバイオレンス(DV)の被害者も大勢世話してきました。DVを受けている邦人女性から連絡を受けると90日間避難できるシェルターにその人の決断で入ってもらいますが、問題はその後の自立です。90日後に生活の当てがなく、結局、元の配偶者のところに戻ってしまう女性も少なくありませんでした。そこで私たちは自立のための支援にも力を尽くしてきました。このように問題に取り組んでいるうちに、新たなサービス需要も発見してそれに対応していくのも仕事の一部です。

 嬉しかったのは、そうやって自立を果たした女性が働いている店で、偶然再会したことです。彼女は私に立派に成人した子供たちの写真を見せてくれました。次にその店に行った時、小切手を渡され、「LTSCがなかったら今の私はいない。是非このお金でサービスを続けてほしい」と言われました。そういう人たちに会うと、私たちの仕事が報われたという気持ちになりますね。
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My Resume
●氏名:坂本安子(Yasuko Sakamoto)
●現職:クリニカルソーシャルワーカー / LTSCソーシャルサービス部ディレクター
●前職:予備校の英語講師→ケースワーカー(日本)→旅行会社勤務(アメリカ)
●取得した資格:Clinical Social Worker (State of California)
●サービス拠点:ロサンゼルス郡
●その他:所属するLTSCでは情報照会、ケースマネージメント、ケアギバー情報、ソーシャルセキュリティ、メディケア、メディカル、低所得者のための住宅プログラムをはじめとする申し込みの手伝い、子育て教室、カウンセリングなどを行っている。
●ウェブサイトなど:www.ltsc.org

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福田恵子 (Keiko Fukuda)

福田恵子 (Keiko Fukuda)

ライタープロフィール

東京の情報出版社勤務を経て1992年渡米。同年より在米日本語雑誌の編集職を2003年まで務める。独立してフリーライターとなってからは、人物インタビュー、アメリカ事情を中心に日米の雑誌に寄稿。執筆業の他にもコーディネーション、翻訳、ローカライゼーション、市場調査、在米日系企業の広報のアウトソーシングなどを手掛けながら母親業にも奮闘中。モットーは入社式で女性取締役のスピーチにあった「ビジネスにマイペースは許されない」。慌ただしく東奔西走する日々を続け、気づけば業界経験30年。

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