[敬老・売却問題] 経営陣と反対派、相違広がる、今夜タウンホール集会、連邦議員も出席
文&写真/佐藤美玲(Text and photos by Mirei Sato)
- 2015年11月23日
ロサンゼルスの日系人高齢者向けの老人ホームなどを経営する非営利団体「敬老シニアヘルスケア」(通称「Keiro」)が、民間の非日系の営利企業に売却されようとしている問題で、売却を進める敬老・経営陣と、売却阻止をめざす反対派住民との間で、意見や解釈の相違がますます広がっている。
この1週間、反対運動を展開する「敬老を守る会」(Save Keiro)と、敬老・経営陣とが接触し、書簡を交わすなどしたが、溝は深まる一方だ。
そんな中で今夜(11月23日夜)、守る会が開くタウンホール集会に、注目が集まる。反対運動を支援する連邦下院議員らも出席することが決まった。日系コミュニティーでこの問題に関心をもつ人は多く、500人ほどが参加するとみられる。
一方、招待されていた敬老・経営陣は、欠席を表明した。
司法長官に反論
守る会は、10月初旬から署名運動を展開してきた。敬老施設の売却を許可したカマラ・ハリス・カリフォルニア州司法長官に対して、売却を差し止め、公聴会を開くよう要請する署名だ。
本誌で既報の通り、司法省は11月5日、敬老・経営陣のスタンスに寄り添った内容で「売却は撤回しない」旨の文書を、守る会に送っている。売却は正当な手続きにのっとって進められたと判断し、売却を覆す理由は見つからないというものだ。
しかし守る会は納得しなかった。11月18日、司法省に宛てて、会の代表であるチャールズ・井川氏とジョン・カジ氏の連名で、書簡を送った。
「敬老の売却撤回はできないという否認に対して強い懸念を抱いている」
その理由は、書簡の中で約10項目にわたって挙げられたが、中核をなしている懸念は、「敬老は日系社会の共有財産であるのに、売却の決断は、広く市民を招いた公聴会なしに進められた」という点にある。
そのような機会があれば、より公平で客観的な立場からの意見をくみとることができ、売却以外の選択肢もあったのではないか、と守る会は指摘する。
また、敬老が司法省に提出した書類に記載された内容にはいくつかの疑問があるにもかかわらず、司法省はそれを鵜呑みにして売却を容認した、とも批判。
敬老側が開いたと主張する説明会などの大半は、現在売却の交渉を進めている「パシフィカ」社ではなく、その前に買い手として名乗り出ていた「エンサイン」社との交渉中に行われたものであって、それらをそのままパシフィカ社への売却の説明会とみなすのはおかしい、という指摘もした。
守る会独自の調査で、パシフィカ社がほかの州で運営する施設で、州の規律違反をおかしていた可能性があることも書き含めた。
敬老が司法省に提出した最新の資産鑑定書は、2013年10月に作成されたもので、刻々と変化する南カリフォルニアの不動産市場をかんがみれば、現在の相場とずれがあるのでは、とも提起している。
これらを根拠に、守る会は、「最低でも一度は司法長官主催で公聴会を開くべきだ」と、あらためて要請した。
寄付で成り立ってきたことを考えても、日系社会の共有財産でありレガシーでもある敬老を「売らなければならない理由」を、誰にも納得できる形で明白にすべきだ、というのが守る会の一貫した主張の一つだ。
敬老も「守る会」に反論
守る会は、11月18日、ボイルハイツにある敬老の施設を訪れて、これまでに集まった5000人以上の署名を手渡した。

2015年11月18日、ボイルハイツの敬老の施設をたずねて署名を渡す「敬老を守る会」のメンバー(左が守る会の入江健二医師、右が守る会代表のチャールズ・井川氏)
写真提供:敬老を守る会 Photo courtesy of Save Keiro
敬老シニアヘルスケアのショーン・ミヤケCEOに直接手渡すことを希望したが、ミヤケ氏は不在。代わりに受け取った職員が、ミヤケ氏から、守る会の井川氏へ宛てた書簡を手渡した。
守る会が、敬老に対して、売却関連の役員会議事録や財務資料などの複写を提出するよう請求していたことを受けて、関連資料を保存したCDも手渡した。
書簡の中でミヤケ氏は、「ご存知のとおり、売却は、何年にもわたって討議され、一般への説明会も経て決まったことだ」と述べている。
「売却のプロセスは常に透明にしてきた。コミュニティーのメンバーからの質問にも正直に答えてきた」。司法長官が売却を承認したことがその証拠にほかならない、という主張だ。
両者の議論は平行線のままで、むしろ溝は深まっている。
そんな中で、守る会は、11月23日にリトル東京のアラタニ日米劇場で、7pmから、タウンホール集会を開く。開催直前になって、地元ロサンゼルスの連邦下院議員らが、次々と出席を表明した。
反対運動を支援して、自身を含めた16人の連邦下院議員の賛同をとりまとめ、ハリス司法長官に売却撤回を求める書簡を送った、ジュディー・チュー議員(民主)が、まず参加を表明した。
民主党の重鎮であるマキシーン・ウォーターズ連邦下院議員と、カリフォルニア州の下院議員で敬老の施設の一部があるサウスベイを地盤とするデイビッド・ハドレー議員(共和)も、出席する。
ハビエ・バセラ連邦下院議員、ミゲル・サンティアゴ州下院議員は、スタッフを参加させる意向だ。
タウンホール集会の入場は無料で、誰でも自由に参加できる。
守る会は、敬老・売却を取り巻く問題点を明らかにして情報を共有するとともに、「売却を阻止するチャンスはまだある」と訴える機会にしたいと考えている。敬老や司法省、コミュニティー内部に対して、「売却撤回までがんばる、諦めていない」という意志表示も兼ねている。
タウンホール集会には、敬老CEOのミヤケ氏も招待されたが、欠席の返事をした。本誌の取材に対してミヤケ氏は、「招待の連絡を受け取ったのが直前すぎて、都合がつかない」と話した。
フロントラインでは近日中に、敬老シニアヘルスケアのショーン・ミヤケCEOの単独インタビューを掲載する予定です。
⚫︎「敬老を守る会」の詳細
savekeiro.org(英語)
jp.savekeiro.org(日本語)
⚫︎敬老がウェブサイトで公開している、売却に関する経緯など
敬老・売却問題に関するフロントラインの過去の記事はこちら:
⚫︎2015年11月13日「反対派が11月23日、リトル東京でタウンホール集会を開催」
⚫︎2015年11月10日「新局面! 司法長官『売却撤回せず』、反対派『断固阻止』で11月下旬タウンホール開催へ」
⚫︎2015年11月6日「カリフォルニア選出連邦下院議員16人がハリス州司法長官に陳情書を提出」
⚫︎2015年11月1日「敬老を売るな! 5000人以上の署名集まる」
⚫︎2015年10月26日「反対署名集め、ロサンゼルス日系コミュニティーが運動開始」
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