シリーズアメリカ再発見㉑ 飛翔!グランドキャニオン・ウェスト

文&写真/佐藤美玲(Text and photos by Mirei Sato)

 

恐怖の急流くだりが始まった...

恐怖の急流くだりが始まった…

 コロラド・リバーの川くだりは、全長40マイル。最初の12マイルが、スリル満点のアドベンチャーだと聞いていた。

 「ここの急流はレベル1から10まで。今日は3から7までいきますよ」とクリント。え、ちょっと待ってよ。心がのけぞった。

 以前、コスタリカの川くだりでレベル3を体験したことがある。基本はボートのふちに腰かけて前傾姿勢のまま渦を乗り越えるのだが、どうしてもダメなときはボートの中にしゃがみこんで頭を抱えてじっと耐えましょう、と教わった。レベル3では、私はほとんどうずくまっていた。ここでは、あれが一番やさしいレベルになるということ?

 クリントをはじめ、ボートを操る船頭さんは、厳しい訓練を受けたフアラパイの若者たちだ。信頼するしかない。

 ボートはゆっくりコロラド・リバーをすべり出した。前方に、ジャブジャブと茶色い波がたっている。「いきますよー」。ものすごい衝撃とともに、ボートのへさきが浮き上がって、落ち、浮き上がっては落ち、ドシャンと水がかかった。コスタリカのレベル3の倍以上はある。

 レベル5はさらに強烈だった。洋服の上からポンチョをかぶっていたが、ビニールなど水の力の前には無力。すぐに裂けて、耳の中に水が入ってきた。

 泣けばいいのか、笑えばいいのか。中国人もブラジル人もフランス人も、顔を見合わせて、出てくる言葉はみな同じ。「Oh my god…」。

 先頭に座ってしまった2人は、一番はじめに一番まともに波を受け、一番深くまで沈むことになる。かなり勇敢だった。一番小柄な2人は、ボートのふちに座っていることができず、ボートの底にしゃがみこむ方を選んだのだが…。そこはいわば湯船というか、滝壺というか。要は、どこに座っても逃げ場はないのだ。

 ギャーーと絶叫しては息を止め、絶叫しては息を止め。ジャンプのたびに体を硬直させて、水の殴打に耐える。修行のような渦がどれぐらい続いたか。

 最後の最後、レベル7で、かけていたサングラスが吹っ飛んだ。前日、「メガネと帽子は必ずヒモつきで」と注意され、売店で買っておいたおかげで、首に巻きついてくれていた。ただ、ボートのふちをつかむ手からは、力の入れ過ぎでツメが半分なくなっていた。

 レベル7を突破して、これで終わった、と放心した私たち。笑顔に戻りかけたところで、クリントの動きが怪しい。ボートは向きを変えて後ろに戻っているような。くぐり抜けたはずの急流の渦がなぜか前方に見えている。「もしかしてまた?」と言い終わらないうちに、にやっと笑ったクリントを見たのが最後。私たちは再び、濁流の中に沈んでいった。
 


 

1

2

3 4 5

この記事が気に入りましたか?

US FrontLineは毎日アメリカの最新情報を日本語でお届けします

関連記事

アメリカの移民法・ビザ
アメリカから日本への帰国
アメリカのビジネス
STS Career

注目の記事

  1. 2025年10月8日

    美しく生きる
    菊の花 ノートルダム清心学園元理事長である渡辺和子さんの言葉に、「どんな場所でも、美しく生...
  2. 2025年10月6日

    Japanese Sake
    日本の「伝統的酒造り」とは 2024年12月、ユネスコ政府間委員会第19回会合で、日...
  3. アメリカの医療・保険制度 アメリカの医療・保険制度は日本と大きく異なり、制度...
  4. 2025年6月4日

    ユーチューバー
    飛行機から見下ろしたテムズ川 誰でもギルティプレジャーがあるだろう。何か難しいこと、面倒なこ...
  5.        ジャズとグルメの町 ニューオーリンズ ルイジアナ州 ...
  6. 環境編 子どもが生きいきと暮らす海外生活のために 両親の海外駐在に伴って日本...
  7. 2025年2月8日

    旅先の美術館
    Norton Museum of Art / West Palm Beach フロリダはウエ...
  8. 約6億年も昔の生物たちの姿が鮮明に残るミステイクン・ポイントは、世界中の研究者から注目を集めている...
ページ上部へ戻る