フォトグラファー
鈴木 香織
文/福田恵子 (Text by Keiko Fukuda)
- 2014年7月20日
高度な資格や専門知識、特殊技能が求められるスペシャリスト。手に職をつけて、アメリカ社会を生き抜くサバイバー。それがたくましき「専門職」の人生だ。「天職」をつかみ、アメリカで活躍する人たちに、その仕事を選んだ理由や、専門職の魅力、やりがいについて聞いた。
「被写体のいい部分引き出す集中力 コミュニケーション力も重要」
フォトグラファーとしての経験は20年以上になります。日本でも制作会社の社員、フリーランス含めて10年以上、2001年にアメリカに移住してからもずっとこの仕事です。出身は日本大学芸術学部写真学科。つまり、進学の時点で将来はカメラマンになると決めていたということです。
きっかけは小学校4年の時の母の再婚でした。それまでカメラやビデオがない母と私と妹という女だけの家に、義父がカメラを持ち込んできたのです。当時の私は少女漫画家になるのが夢だったのですが、絵を描くのは得意でもお話を作るのはあまり得意ではありませんでした。「漫画家としての才能はないかも」と悩んでいた時に、父が私に「写真をやってみたら?」と、カメラをプレゼントしてくれました。嬉しくて、友達や犬などかたっぱしから撮り、すぐに夢中になりました。高校では写真部に所属、そして大学も写真学科を選びました。
就職したのは東京コレクションの撮影をはじめ、ファッション写真を多く手がけていたギャップ・ジャパンという制作会社です。アシスタントから始めて、社員カメラマンになりました。ファッションを中心に撮影していましたが、一つの壁にぶつかってしまいました。社員としてそこに所属している限り、新しい分野に挑戦する機会がないということです。非常に恵まれた環境でしたが、1993年、独立を決行しました。
フリーランスとしては1年ほどで軌道に乗り、アシスタントも付けて多忙な日々を過ごしていました。しかし、転機が訪れます。友達の紹介で日系アメリカ人の夫と出会ったのです。彼がアメリカに帰るタイミングで私も誘われましたが、言葉も環境も違うアメリカでやっていく自信がなく、2年間は遠距離交際を続けながら悩みました。結局、「やらないで後悔するより、やってみて後悔したほうがいい。せっかくアメリカで働くという選択肢があるのに、ここで挑戦しないときっと後悔する」という結論に至り、渡米して心機一転、ゼロから頑張ることにしました。
事前に結婚してグリーンカードを取得してから、夫が住むロサンゼルスにやって来ました。当時サラリーマンだった彼に会社を辞めて、私のマネージャーに専念してもらうようにお願いしました。自分は英語が流暢ではない、でも手に職はある、だから売り込み、ギャラ交渉、アシスタントを夫に担当してもらい、二人三脚でやっていければという気持ちでした。
イーストウッドからの言葉が宝物
日米の違いは明確です。被写体には、日本では非常に丁寧な姿勢で接していました。しかし、アメリカに来てセレブの撮影をする時に「Could you please〜」と低姿勢でお願いしていたところ、夫に「ああいう言い方はアメリカ人にはかったるいだけ。撮影中はフォトグラファーにすべてを委ねているんだから、撮られる側も撮る側も対等という意識でいい」と言われたのです。目からウロコでしたね。
セレブに関してはジョニー・デップ、ジョージ・クルーニーはじめ、100人以上は撮影してきました。今はさまざまな人物、料理、商品の物撮りまで何でも引き受けています。つくづく自分が新しいこと、違うことに日々取り組むのが好きなのだということがわかりました。変化を求めるタイプなんですね。
どういう人がフォトグラファーに向いているかと言うと、人物や物事のいい部分を引き出すことに集中できる人だと思います。芸術写真ではなく商業写真の場合は、クライアントの意向で被写体が決まります。時には自分の好みではない商品も撮影しなければなりません。その被写体の良い部分を見つけ出して肯定的に取り組む姿勢が何より大事です。アートディレクターやクライアントと一緒に働くため、人とコミュニケーションを取ることが好きなことも条件になります。
最近のグッドニュースは、クリント・イーストウッドを撮影した後に、仕事を依頼してきた映画会社の担当者が私に「クリントがあなたの仕事ぶりを気に入っているって。彼女は自分が欲しいもの(どう撮影したいか)をわかっている、と言っていた」と伝えてくれたことです。大勢の一流のプロフェッショナルのトップに立って映画を製作している大御所から言っていただいた言葉は、宝物のように感じられました。本当に嬉しかったです。

Gene Shibuya
●氏名:スズキ・カオリ(Kaori Suzuki)
●現職:フォトグラファー
●前職:フォトグラファーのアシスタント
●ビジネス拠点:拠点は南カリフォルニアで、仕事があればアメリカ各地と世界各国を回る
●その他:10年後の夢は個展の開催と作品集の出版。最近は写真だけでなく、ビデオグラファーの夫と共にビデオ制作にも携わる。芸能人のインタビュー動画や企業のPRビデオなど幅広く手がける。
●ウェブサイト:www.suzukiKphotography.com
この記事が気に入りましたか?
US FrontLineは毎日アメリカの最新情報を日本語でお届けします