第18回 おしゃれ

文&写真/樋口ちづ子(Text and photos by Chizuko Higuchi)

 おしゃれをしている人を見るのは楽しい。「この人、ちょっと気がふれているのじゃあないかしらん」と疑うほどに過激であれば、もっと興味をひかれる。「おお、すごい。あの顔とこの格好を仕上げるまで、どのくらいの時間がかかったのだろう」興味津々である。費やされたエネルギーと度胸に感心する。

 何事でもそうだが、平均を通り越して何かをするには熱狂がいる。おしゃれもそうだ。熱狂的なものは、好き嫌いを通り越し、ある種のエネルギーを発散する。人目を楽しませるから、無償のエンターテイメント。大げさに言えば社会貢献と言えなくもない。

 反対の場合を考えてみれば解りやすい。起きぬけの顔、スッピン、無精ひげにジャージのどろりとした格好。こんな外見はつまらない。こちらの気分まで萎える。

 勿論、例外もある。スッピンで輝く目、清楚ないでたちで、すがすがしい女性には、はっとさせられる。底知れぬ知識、まっとうな精神の姿勢、現実にアタックする行動力が外見のルーズさを補う男性もいる。でも、残念だな、と思う。ほんのちょっと、気をつければ魅力が倍増するのにと。

 私の仕事仲間のリアルターはきっちりしたスーツが仕事着。スタイリッシュである。誰にとっても大切な不動産を扱うから、責任を示せる服装になる。同僚の米国人を身近に見ていると、失礼ながら、その千変万化の変身ぶりが面白い。

ユニクロ、オレンジカウンティーにオープン Photo © Chizuko Higuchi

ユニクロ、オレンジカウンティーにオープン
Photo © Chizuko Higuchi

 例えばこうだ。お客様との初面談は相手方に自分を印象付ける大切な場面。大抵は黒、紺、グレーの真面目な印象のスーツを選んでいる。目も覚めんばかりにカッコイイ。「おおー、気合入っているな」と内心ニヤリとする。晴れやかな笑顔と自信満々の口ぶりで仕上げする。

 ところが、会社で一人で物件の検索をやっている時は別人だ。長い時間、黙々とPCを見続けている。集中しているから、声さえかけられない。売買成立後には膨大な書類が出てくる。書類対応は苦手なエージェントが多い。他人に任すこともできるが、費用が発生する。夜遅くまで不器用に自分でやっている人もいる。そんな時の服装は運動靴にヨレヨレの半パン、Tシャツである。とても同一人物とは思えない。

 オープンハウスの時はまた、豹変する。派手派手の格好が定番だ。男性なら、まず上は絹のシャツ、色のコーディネイトがばっちりあったアイロンのきいたズボンと靴。実に魅力的な服装である。会社ですれ違っただけでも、うっとりする。女性は明るい色の華のあるドレス。まるでバービー人形だ。その上、「転んだら、足首折るよ」と警告したくなるような恐ろしく高いハイヒールをはいて仕上げである。どこに何をしに行くかはっきり判る。

 彼らとは身体的差があるので、私にはとてもまねはできないが、服装力のサンプルを見ているようで参考になる。おしゃれにはエネルギーがいる。変身には度胸がいる。

 その派手な外見や態度を支えているのは、実は裏の地道な作業であることはいうまでもない。これがなければただの着せ替え人形である。この業界で長く成功している人には共通する特徴がある。まず、明るく、親切。勉強家。経済、社会情勢に敏感。現実家。どの売買にもトラブルはつきものだ。トラブルへの誠実な対応。解決する行動力と忍耐力。その結果、おだやかで信頼の置ける人物になる。

 私がトラブル対応に悪戦苦闘し、不平を言っていると、聞きかねたボスから声がかかった。「解決するのは、簡単だよ。仕事を取らなきゃあいいんだよ。そのかわり、収入はゼロ。苦労しても収入があるのと、どっちがいい?」答えは明瞭である。

 さあ、おしゃれをして、今日も出かけよう。ちょっと元気ないから、赤シャツにしよう。トンボの羽のように軽い、茶色のマフラーを巻いたら、首元に秋風を感じるかしら。

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樋口ちづ子 (Chizuko Higuchi)

樋口ちづ子 (Chizuko Higuchi)

ライタープロフィール

カリフォルニア州オレンジ郡在住。気がつけばアメリカに暮らしてもう37年。1976年に渡米し、アラバマを皮切りに全米各地を仕事で回る。ラスベガスで結婚、一女の母に。カリフォルニアで美術を学び、あさひ学園教師やビジュアルアーツ教師を経て、1999年から不動産業に従事。山口県萩市出身。早稲田大学卒。

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