第19回 本物はシャープ
文&写真/樋口ちづ子(Text and photos by Chizuko Higuchi)
- 2014年11月20日
日本から来た3人の若者のアンサンブルグループ「Tsukemen」(ツケメン)がLAでアメリカデビューを果たした。秋も深まる10月11日夕のことである。
TsukemenはTairikuさん、KentaさんのバイオリンとSuguruさんのピアノ。クラシックはもとより、映画音楽、ジャズ、ゲーム音楽からアニメ曲まで幅広いジャンルをこなす。作曲したオリジナル曲もあり、面白いアレンジで斬新な音楽を創る。
クラシックでたたき上げた実力が根底にあるから、ジャンルを超えた音楽も危なげがない。繊細な表現力、深く内省する音。若者の瞬発力や爆発力。それらが合体したエネルギッシュな舞台は、新鮮な驚きだった。高いレベルの新しい形のアンサンブルだ。彼らはきっと、どこかに行ける。日本の若者もやってくれます。
彼らは音響装置を使わず「生音」にこだわる。「肉声」がそうであるように、「生音」のひだに様々な感性が聴き取れる。4歳から積み重ねて身につけたクラシックのテクニックと音楽性の上に、彼らの今の感性が、自由自在な音に織り込まれている。
曲が始まるその瞬間に耳をそばだてる。いい演奏は最初の数小節で、ほぼ、判るといわれている。はっとするシャープさがある。耳をひきつけて離さない緊張感がある。その音に触れたら、カミソリの刃でサッと切られたように、真っ赤な血がたらたらと流れてくる、そんな音。それを感じたら本物だ。終わりも大切。曲の中で語られた物語の結論だから。終わりの音が心をつかめば、その曲はいつまでもあなたの胸に残る。
その彼らの舞台に、私が所属する混声合唱団、OCFC40名がゲスト出演し、「星唄」「虹色の翼」を合同演奏した。彼らが中学生のために作曲した2曲。我々は20代から78歳まで、年齢も人生のステージも全く異なる在米老若男女の寄り合い所帯である。といってもパッションに燃えた指導者を得て、一冊の本のような楽譜も歌える。これから世界に羽ばたく若者との共演は格別に楽しいものだった。もちろん、震災復興支援歌「花は咲く」も忘れずに。
大きな劇場のステージ中央に立ち、強いライトに照らされた時だった。まぶしい光の反対側の客席は真っ暗で、なにも見えない。3人の姿を斜め前に見ながら、私は一瞬、中学生の時間に自分が遠く流されてはまるのを感じた。
故郷の山口県萩市はお寺の多い城下町だった。育った家はお寺の後ろで、隣は大きな墓地だった。子供の頃は遊び道具もなく、ガランとした家で寂しい時は、墓地に向かって学校で教わった歌を一人で歌った。墓地は人の気配もなく、静かで、ずっとずっと向こうまで墓石が並んでいた。お寺の大きくなだらかな屋根を見ると、なぜか安心した。時々、鳩が飛び立った。広い墓地の向こうまで届くように歌った。歌っているうちに寂しさが水色の空に溶けて消えた。歌を創ってくれた作者と一体になった気がした。
客席は真っ暗だ。もう、誰のために歌っているのでもない。聞いてくださっている方が一人でも2千人でも同じです。
不思議ですね。子供の頃に馴染んだものは、いつかまた自分に還って来る。いつか点と点がつながってゆく。過去はいつか今に生かされる。おそらく今はいつか未来に生かされる。
コンサート終了後は、夜風が肌に冷たかった。ほてった身体にはちょうどいい。
「花は咲く、いつか生まれる君のため、花は咲く、いつか恋する君のために」
歌は流れ、いつかどこかに辿りつく。
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