第13回 「欲しいモノは自分で作ろう」

文&写真/小野アムスデン道子(Text and photos by Michiko Ono Amsden)

ミッドセンチュリー
あの時代の家具が好きで

 ポートランドでは、新しいか古いかでモノの価値を判断しないという話を何度か書いたが、とにかく自分がいいと思うモノへのこだわりが強い人が多い。例えば、ミッドセンチュリーと呼ばれる20世紀半ば(1940〜60年代)のデザインが好きだから…ということで、アンティークを探すだけではなくて、自分で作るようになってしまったという若者がいる。ヴィンテージ家具の店が多いサウス・イーストのホーソン・ブルバードで手頃な価格のミッドセンチュリー家具を扱う「レッド・スナッパー」では、オリジナルの家具に混じって、若い職人の作る家具が並ぶ。そんな若手職人の一人、ジェイクさんは「何もミッドセンチュリーといっても、イームズ・チェアやジョージ・ネルソンの時計だけじゃない、あの時代の機能的でいて使い心地のよい、とんがってない感じが好きなんだよ。だから自分で作ることにしたのさ。好きな張り地を選んでもらってカスタムメイドの家具も作るよ」と語る。彼の作る家具は、確かに新品なのだけど丸みのある優しいフォルム、落ち着いた色柄でしっくり馴染む感じのするミッドセンチュリースタイルだ。

 プロフェッショナルの職人でなくても「本当に欲しいモノなら自分で作ってしまおう」という人も多い。そんな“モノづくり精神”に応える本格的な器具や工具を揃えて、作り方まで教えてくれるスペースもある。同じくサウス・イーストにある「ADX(Art Design Portland)」がそれ。メイカーズスペースともファブリーケーション(製作)ハウスとも言うモノづくりのための共同スペースだが、その中身がすごい。

倉庫かと思うほど大きいADXは、モノづくりの天国だ Photo © Michiko Ono Amsden

倉庫かと思うほど大きいADXは、モノづくりの天国だ
Photo © Michiko Ono Amsden

 

うらやましいような
モノづくりコミュニティ

 広さは1万4000平方フィート(約1300㎡)もあって、木工用スペースにはノコギリやカンナ、金属加工スペースには溶接器具や研磨機をはじめ、それぞれに製作に必要なあらゆる器具や工具が揃う。また「ザ・ブリッジThe Bridge」と呼ばれる3Dプリンターやレザーカッターなどがあるデザインのためのスペースやシルクスクリーンやジュエリー製作のための専用スペースもある。

 月75ドル(1年間プリペイドだと45ドル)からのメンバーシップに入れば、自由に器具やスペースを使える。様々なワークショップが毎日開催されており、プロジェクトごとにお金を払って熟練の職人についてもらって一緒に製作をすることもできる。地元資材店と提携して、メンバー割引価格で資材や工具を提供もしている。ここには、趣味としてモノづくりに励む人から、新しい製品を世に送り出そうという起業家までさまざまな人が集まる。私が訪れたときには、ADXの中には入りきらない“フードカート”を製作するべく、外で3人の若者が工具片手に奮闘中だった。

 このADXは、単なる製作共同スペースではない。ノウハウの共有や情報交換の場、教育やサポートを通した一つのモノづくりコミュニティになっている。そして、新しいビジネスが羽ばたく場にもなっているのだ。

何を作っているかと聞くと、笑顔で「僕らのフードカートさ」 Photo © Michiko Ono Amsden

何を作っているかと聞くと、笑顔で「僕らのフードカートさ」
Photo © Michiko Ono Amsden


 
レッド・スナッパー Red Snapper
住所:4726 SE Hawthorne Blvd., Portland, OR 97215
電話:503-939-8967

ADX
住所:417 SE 11th Ave., Portland, OR 97214
電話:503-915-4342
http://adxportland.com

 

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小野アムスデン道子 (Michiko Ono Amsden)

小野アムスデン道子 (Michiko Ono Amsden)

ライタープロフィール

世界有数のトラベルガイドブック「ロンリープラネット日本語版」の編集を経て、フリーランスへ。東京とポートランドを行き来しつつ、世界あちこちにも飛ぶ。旅の楽しみ方を中心に食・文化・アートなどについて執筆、編集、翻訳多数。日本旅行作家協会会員。

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