第32回 個性的な教師たち

文&写真/福田恵子(Text and photo by Keiko Fukuda)

母親の私がお気に入りだったニーダーストラス先生(左奥)。ニナの小学校の卒業式で一緒に写真に収まってくれた

母親の私がお気に入りだった
ニーダーストラス先生(左奥)。
ニナの小学校の卒業式で一緒に写真に収まってくれた
Photo © Keiko Fukuda

 ノアがもうすぐ義務教育を卒業するという節目に、過去の担任教師について思いを巡らせた。小学校1年時で最初の担任として登場したのが日系人のミセス・岩下。1年と2年の複式学級で、ノアは彼女に2年連続でお世話になった。しかも、3年に進級する時に岩下先生は引退したので、ノアたちが「最後のクラス」でもあった。最初、面談で岩下先生に会った時、「子どもたちの名前を見て、日系の子どもがいる、ととっても楽しみにしていたのよ」と言ってくれた。彼女とは日本語で話す機会はなかった。しかし、ノアがクラスで出された課題に取り組んでいた時のこと。「頭の上から『はやく、はやく』って日本語が聞こえた。ミセス岩下、日本語しゃべれるんだね。知らなかった」とノア。私も知らなかった。当時は土曜日に補習校に通っていたノア。そのことを岩下先生も応援してくれていた。「言葉は立派な財産。絶対に日本語を諦めさせてはダメ。親が諦めたら子どもは簡単に楽な方に流れるから」と岩下先生は言っていた。12年後(もう、そんなに経ってしまった、とは…)の今、ノアが日本語検定の1級に合格した。私は岩下先生のあの時の言葉を、改めて噛み締めて感謝している。

 今思えば、おそらく岩下先生は40年以上のキャリアの持ち主だったのだと思う。他の仕事でも基本的には同じだが、アメリカの教師に引退の時期はなく、本人が働きたい年まで子どもたちを教えることができる。そう言えば、ノアの4年の時の担任の先生もキャリア40年以上のミセス・ブロックマンだった。その5年後、5歳違いの妹のニナの担任もまた同じ先生。

 ニナの名字にノアの妹だと気付いた彼女、「ノアは今何年生? おお、もう高校生なの? 私は永遠に5年生で止まっているのにね」と笑いながら言った。既に大きな孫までいるということだったが、経験はもちろん、若い教師にもまったくひけをとらないバイタリティーでぐいぐい引っ張っていくタイプの人だった。

子どもの好きな先生とは別?

 ニナの教師で印象的だったのはまず2年時のミス・ニーダーストラス。自然と動物を愛する人で、教室の壁にはオバマ大統領のポスターが貼ってあった。バックトゥスクールナイトで、ニーダーストラス先生は、こう自己紹介した。「私にeメールを出してもおそらく返事は遅くなります。コンピュータをあまり開くことはないからです。携帯も持っていません。私の一番の楽しみは読書です。本を読んでいる時が一番幸せだし、子どもたちにも本の素晴らしさに目覚めてほしい。コンピュータにかじりつくよりも」。私はおおいにこの先生に共感した。自分がコンピュータと携帯なしでは生活できないから、余計に魅力的に感じたのかもしれない。

 もう1人、強烈な印象を残したのが5年時の担任だったミセス・ベリカーンだ。先生はレズビアンだった。女性と結婚していた。その話だけが一人歩きしたのか、「ベリカーン先生は男の子の生徒に冷たい」などと言う人もいた。しかし、私が1年間、接した限りではそのようなことはなかったと思う。非常にリベラルで、子どもたちのポジティブな面を伸ばしてくれる先生に見えた。実際、彼女がニナの卒業アルバムに残してくれたメッセージは親の私にとっては宝物だ。

 「ニナは静かで言葉数は少ない。しかし、強い意志を持ち、物事をやり遂げることができる。将来、どんな仕事を選んだとしても、私は彼女の成功を信じて疑わない」。

 私はあくまで個人的にまた会いたいと思う教師たちの顔を思い浮かべたが、子どもたち本人が好きだった教師は別の人物なのだろう、きっと…。

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福田恵子 (Keiko Fukuda)

福田恵子 (Keiko Fukuda)

ライタープロフィール

東京の情報出版社勤務を経て1992年渡米。同年より在米日本語雑誌の編集職を2003年まで務める。独立してフリーライターとなってからは、人物インタビュー、アメリカ事情を中心に日米の雑誌に寄稿。執筆業の他にもコーディネーション、翻訳、ローカライゼーション、市場調査、在米日系企業の広報のアウトソーシングなどを手掛けながら母親業にも奮闘中。モットーは入社式で女性取締役のスピーチにあった「ビジネスにマイペースは許されない」。慌ただしく東奔西走する日々を続け、気づけば業界経験30年。

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