第29回 ボルドーワインの常識非常識

文&写真/斎藤ゆき(Text and photos by Yuki Saito)

ブドウの「かす」を一瞬にして取り出す

ブドウの「かす」を一瞬にして取り出す
Photo © Yuki Saito

 今年もボルドー視察の時期だ。今回は、高級シャトーがひしめく右岸、左岸 に加えて、「普通」のボルドーワインを生産する地域を視察した。中でも「二つの海の合間」(Entre deux mers)と呼ばれる大量生産地域が、取材の目玉である。

 「二つの海」とは、 ボルドーを挟んで縦に走る東のジロンド川と、西のドルドーニュ川を「海」に見立てたもので、この2つの川に挟まれた広大な地域を指す。

 一般に日米で購入される「ボルドーワイン」は、10ドルから30ドルが主流で、仏小売価格に引き直すと、3ユーロから9ユーロ程度。まさに大量生産地で作られるワインの典型である。ブドウは、高級品種のカベルネではなく、ボルドー中で栽培されるメルローが主。これにカベルネフランや、時としてカベルネソービニョンがブレンドされる。

 ボルドーは中小ブドウ栽培農家が大勢を占め、フランス一番の生産高を誇る地域。大手の農家であれば、自社ブランドを作るチョイスもあるが、大抵は中小農家と共に農業組合(Co-op)を組成。数十、数百という会員農家のブドウを、組合の工場に集めることでボリュームを確保し、効率のよい一極大量生産をするとこでコストを抑え、専従の営業要員がボルドーワインとして輸出、販売を手がける。

農業組合のブドウ引き取り場

農業組合のブドウ引き取り場
Photo © Yuki Saito

 今回の取材先は、仏スーパーマーケットを主な販売網とし、生産の4割近くを日本やアメリカなど海外に輸出する大手数社。北の一流どころばかりを訪問した足で向かった先は、見渡す限り広大なワイン畑が続く南の内陸部。前出のグランクリュ畑は、 低木に仕立てたブドウの木が、びっしりと高密度で並び、合間に植えた雑草が青々と茂る独特の風景。対してこの地域では、背が高いブドウの木が、広々とした植樹間隔で植えられており、明らかにトラクター仕様に作った畑だと分かる。雑草も黄色っぽく、農薬を散布した形跡が伺われる。これはカリフォルニアでおなじみの風景だが、整然として広大な畑は、目的を持ってきちんとケアを(トラクターで)している様子が見て取れる。

 組合を訪ね、工場を見学して驚いたのは、見渡す限り延々と続く巨大設備と、最先端テクノロジーを駆使したワインメーキング。収穫期には何百トンというブドウを満載したトラックが列をなし、その場で組合専門テクニシャンがブドウの質を3段階に仕分ける。高品質A、Bクラスのブドウは最新鋭のオプティック・ソーターという厳密な仕分け機で、色、形、大きさによって選り分けられる。この機械は、ボルドーやナパの、超高級ワイナリーが最近使い始めた高価な機械だ。

 熟成度が低いCクラス のブドウは、ハイテクの高熱処理機にかけられる。ブドウの皮に高熱を与えて、実と皮の間につまった色素と旨味を抽出し易くするわけだ。これは前回の記事で言及した、フランスのお家芸でもある。その後ジュースがワインになるまでの工程は、正に「超近代工場」の面目躍如で、スピーディーでクリーンなワイン作りに感心した。熟成中にタンクの底に沈んでいく、ブドウの皮や種などの大量の「かす」を、シャベルで掻き出すのは大変な労働だが、こちらでは、超ど級の分厚いステンレススティール製のタンクのドアを、ロボットが一瞬にして開閉し、底に溜まったかすを6秒で取り出すという。こうしてできたワインが、ボルドーワインとして一般の食卓にのる訳だ。ちなみに、シャトー・ムートン・ロスチャイルドの直系で、「リーズナブルな価格」で世界的に流通している「ムートン・カデ(Mouton Cadet)」は、ここの農業組合が生産している。

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斎藤ゆき (Yuki Saito)

斎藤ゆき (Yuki Saito)

ライタープロフィール

東京都出身。NYで金融キャリアを構築後、若くしてリタイア。生涯のパッションであるワインを追求し、日本人として希有の資格を数多く有するトッププロ。業界最高峰のMaster of Wine Programに所属し、AIWS (Wine & Spirits Education TrustのDiploma)及びCourt of Master Sommeliers認定ソムリエ資格を有する。カリフォルニアワインを日本に紹介する傍ら、欧米にてワイン審査員及びライターとして活躍。講演や試飲会を通して、日米のワイン教育にも携わっている。Wisteria Wineで無料講座と動画を配給

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