第14回「食を通して日本と繋がる」
文&写真/小野アムスデン道子(Text and photos by Michiko Ono Amsden)
- 2016年5月25日
- 2016年6月号掲載, オレゴン州
人の受け入れが優しい街
ここで自然食を広めたい
ランチ時、ダウンタウンに位置する「シェフ・ナオコ」のお店にどんどんお客さんが入っていく。ここは、ヘルシーな日本料理が手軽に食べられると地元でも大人気のレストランだ。オーナーシェフの田村なを子さんがポートランドにこの自然食のお店を開いたのは2008年のこと。オープン時にポートランドの人からかけられた予想外のコメントにとても背中を押されたという。「ポートランドは、人の受け入れ方がとても優しいなと思ったのです。お客さんの方から『ようこそこの街へ。ここでレストランを開いてくれてありがとう』と言われたのに驚きました」となを子さん。
小さい時に心臓が悪かったというなを子さん。医学は病気を治せてもなかなか丈夫な身体を作るということはしてくれない。そこでお母様は、食で身体をよくしようと、学校給食を自然食にという運動を始められ、やがてレストランを開店するに至る。お母様は、言わば地元の農家が作ったオーガニックな作物をテーブルへという「ファームトゥーテーブル」の先駆け。今もアメリカの有名な料理学校CIAのシンガポール校で講師として教壇にも立たれているという。
なを子さんは、自身の健康も回復した自然食を広めるべく、日本でお母様を手伝っていた。ポートランドに移住したきっかけは、お嬢さんのサマーキャンプの参加から。個性を「消す」日本では何かと目立つお嬢さんが学校に馴染めなくて悩んでいた時に、友達に勧められてポートランドでのサマーキャンプへ。毎日笑顔で楽しそうなお嬢さんを見て、こちらに住むのもいいかなと思ったのだそう。
地元の食材で作る日本食
ケータリングや機内食も
ポートランドは、フッド山のきれいな水に恵まれた土地で、よい作物が育つとはいえ、自分の料理に使う食材を全部揃えるのはなかなかたいへんだった。CIAの縁をたどり、スローフード協会にも参加したり、ここでの自然食の現状をつかむのには1年かかったという。遂に、ファーマーズマーケットで、「大根とゴボウがおいしいと思った」生産者のアヤーズクリークファームに巡り会い、今や3年越しで北海道産の種から黒豆を作ってもらうまでになった。レストランのメニューには、季節の新鮮な素材を使ったメニューが並ぶ。
「ポートランドの人は、食に込めた思いを食べて理解してくれるんです。ポートランドの食材で簡単に日本食を作れるということを伝えていきたいですね」と語るなを子さん。レストランだけではなく、さまざまなイベントへのケータリング、また成田までの直行便を持つデルタ航空の成田便ビジネスクラスの機内食も作っている。
今、ポートランドで日本人が活躍できるのは、日系1世からの先輩達が築いてくれた親日文化の恩恵がこの地にあるからとNPO法人「From Portland With Love」という団体を作り、2月には日米文化交流を目的とした福島県南相馬市(オレゴン州ペンドルトン市は姉妹都市)を応援するチャリティーコンサートを催した。
日本から離れていても、食の世界を通して深く日本と寄り添うエネルギッシュななを子さん。秋には拡張したレストランをオープンされるそうだが、そのデザインを隈研吾氏が請け負われたというのもうなずける。
住所:1237 SW Jefferson Street, Portland, OR 97201
電話:503-227-4136
ウェブサイト:http://www.chefnaoko.com
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