第41回 ワイン業界における”next big thing”とは?

文&写真/斎藤ゆき(Text and photos by Yuki Saito)

世界のワインを利き酒し、動向を探るPhoto © Yuki Saito

世界のワインを利き酒し、動向を探る
Photo © Yuki Saito

 ワイン業界も全てのビジネスと同じく、”What is the next big thing?”と常に自問している。「次に何が流行るか?仕掛けるか?一番の成長株か?」という見通しと期待で、これにうまく乗れば、大きな成長が見込まれるからだ。成功例としては、90年代から一斉を風靡した「ホワイトジンファンデル」や、最近の「モスカトブーム」が記憶に新しい。前者はカリフォルニアで幅広く生育するジンファンデル品種を、赤ワインではなく、甘味を残したロゼワインとして製造して、世界的なブームを呼んだ。

 後者モスカト(Moscato)は、仏ローヌ地方出身のミュスカ(Muscat)品種をイタリア語読みしたもので、イタリアではアルコール度が控えめで、仄かな甘みを残した穏やかな発泡酒として、古くから愛される地場酒である。値段も一本10ドル程度とお手軽で、 口当たりが良く、アルコール度数も5.5%から9%と普通のワイン(13〜14.5%)よりもかなり低めで、初めてワインを飲む若い世代や、ダイエットを気にする女性達の幅広い支持を得た。本家本元イタリアの輸入もの(アスティなどと呼ばれる)では間に合わず、米国最大手のガロ社のベアフット(Barefoot)を始め、国産モスカトが大量に出回った。米国内の出荷量はこの5年で、2倍に跳ね上がるほどのヒット商品と成った。

業界の動向をモニターするPhoto © Yuki Saito

業界の動向をモニターする
Photo © Yuki Saito

 そこで気になるのが「次」のヒット商品。米国内では「レッドブレンド」がホットだといわれている。黒ブドウ品種をいくつかブレンドしたワインだが、ボルドー(カベルネ、メルローなどのブレンド)やローヌ(グルナッシュ、シラーなど)のように、伝統的なブレンドだけではない。そこはどんな品種もきちんと成熟するカリフォルニアゆえに、「何でもあり」の型破りなスタイルだ。例えば、ジンファンデルにカベルネを混ぜたり、更にシラーを加えたりと、フランス人なら「考えられない」掛け合わせである。まあ、フランスの場合、各地方で栽培できる品種が法律で限られているので、無理もない。ヒット作のプリズナー(Prisoner)を始め、大小のメーカーが味とコストパフォーマンスを鑑みて作るレッドブレンドは、見方によってはなかなか面白いワインではある。
 
 単一品種を見た場合、赤ならカベルネ、白はシャルドネが最も人気のあるワインだが、それを追い上げているのがピノノワールだ。プロの間では、一昔以上も前から、次はリースリング!という期待があったが、これがなかなか素人受けせず、今でも高品質と低価格のヴァリューワインにもかかわらず、なかなか主流にならない。ワイン生産地域も、それぞれが「これぞ!」というワインを生み出そうと努力している。マルボロー地区で作ったソービニョンブランでホームランを飛ばしたニュージーランドは、続いてエレガントなピノノワールでプリミアムワインの地位を獲得し、その後もボルドーブレンド、シラー、シャルドネなど高品質で独特のワインを輸出している。まるでニュージーランド自体がNext Big thingと化したようだ。

 昔からあるのに、最近注目されだしたロゼも、世界的にも静かなブームを呼んでいる。美しいサーモン色の辛口ロゼといえば、本場プロヴァンスだが、夏だけの飲み物ではなく、どんな食べ物にも相性が良いという「ペアリングワイン」という戦略が当たったのか、世界各地でつくる辛口のロゼの人気が上昇している。同じ伝で、シャンペンも「特別な祝い事」に開けるだけではなく、いつでも気軽に飲める「日常的な飲み物」への脱皮を計っており、世界各地で作るスパークリングワインも含めて、更に人気が上昇している。さてWhat is the next big thing?

世界各地のロゼワインを利き酒Photo © Yuki Saito

世界各地のロゼワインを利き酒
Photo © Yuki Saito

この記事が気に入りましたか?

US FrontLineは毎日アメリカの最新情報を日本語でお届けします

斎藤ゆき (Yuki Saito)

斎藤ゆき (Yuki Saito)

ライタープロフィール

東京都出身。NYで金融キャリアを構築後、若くしてリタイア。生涯のパッションであるワインを追求し、日本人として希有の資格を数多く有するトッププロ。業界最高峰のMaster of Wine Programに所属し、AIWS (Wine & Spirits Education TrustのDiploma)及びCourt of Master Sommeliers認定ソムリエ資格を有する。カリフォルニアワインを日本に紹介する傍ら、欧米にてワイン審査員及びライターとして活躍。講演や試飲会を通して、日米のワイン教育にも携わっている。Wisteria Wineで無料講座と動画を配給

この著者への感想・コメントはこちらから

Name / お名前*

Email*

Comment / 本文

この著者の最新の記事

関連記事

資格の学校TAC
アメリカの移民法・ビザ
アメリカから日本への帰国
アメリカのビジネス
アメリカの人材採用

注目の記事

  1. キッコーマン うちのごはん 忙しくて食事の準備に時間はかけられないけれど、家族やお子...
  2. ニューヨークの古い教会 根を詰めて仕事をし、極度に集中した緊張の日々が続くと、息が詰まって爆...
  3. ダイナミックに流れ落ちるヴァージニア滝の落差は、ナイアガラの滝の2倍 カナダの北西部、ノース...
  4. アメリカでは事故に遭い怪我をした場合、弁護士に依頼することが一般的です。しかし日本にはそう...
  5. グッゲンハイム美術館 Solomon R. Guggenheim MuseumNew York ...
  6. 2023年2月14日

    愛するアメリカ
    サンフランシスコの町並み 一年中温暖なカリフォルニアだが、冬は雨が降る。以前は1年間でたった...
  7. キルトを縫い合わせたような美しい田園風景が広がるグラン・プレ カナダの東部ノヴァスコシア州に...
  8. 本稿は、特に日系企業で1年を通して米国に滞在する駐在員が連邦税務申告書「Form 1040...
ページ上部へ戻る