第5回 「ブルースのルーツを訪ねて」
ミシシッピ州
文&写真/小野アムスデン道子(Text and photos by Michiko Ono Amsden)
- 2017年7月1日
- 2017年7月号掲載, ミシシッピ州
ブルースの誕生は
綿花畑の中から
広いアメリカ、こんなところがあったのかという旅先を紹介していく本シリーズの第5回はブルースの故郷ミシシッピ州。温暖な気候で綿花が育つアメリカ南部州のなかで、ミシシッピ州は、19世紀には黒人奴隷労働力が支える綿花の大プランテーションが広がっていた。綿花畑の辛い労働で黒人たちが歌っていた音楽が元になって生まれたのがブルース。州内にはマディ・ウォーターズやサム・クック、B.B.キングなど数々の伝説的なアーティストの足跡をたどれる「ミシシッピ・ブルース・トレイル」があり、いわれのある場所を示すブルーの標識が200ほども立っている。
むせぶようなギターの響きと魂に届く深い声、誰でもああこれこそブルースと思えるマディ・ウォーターズの音楽。彼の育ったクラークスデールの町には、「デルタ・ブルース・ミュージアム」があって、館内に彼の育った家が再現されている。この伝説的なミュージシャンは、当時、綿花畑の小作人として働き、どちらかというと掘っ立て小屋という表現がふさわしいこの家のポーチで歌っていた。そこを、ブルース・シンガーを探す旅で立ち寄ったアメリカ議会図書館のディレクターにして著名な民族音楽研究家アラン・ローマックスに見いだされたのが、最初のステップだったという驚くべき話を聞く。
クラークスデールには、ギタリストのロバート・ジョンソンがギターテクニックと引き換えに魂を売る取引を悪魔としたという「クロス・ロード」や、モーガン・フリーマンも経営者の一人というライブハウス「グラウンド・ゼロ・ブルース・クラブ」もある。ブルースファンによる無数の落書きで埋め尽くされた壁、今もここでは毎日のように、熱いブルースのライブが開かれている。
ブルースの伝説
過去から未来へ
マディ・ウォーターズの生まれたローリングフォークあたりには、今でも綿花畑が広がり、コットン・ジンという巨大な綿繰り機を備えた工場から、綿花の塊を州外・国外へも出している。また、南部料理に欠かせないキャットフィッシュ(アメリカナマズ)の養殖池には、1エーカーに4万匹ものナマズが泳いでいる。ご馳走になったキャットフィッシュのフライは、白身であっさりしていて驚くほどおいしかった。
ローリングフォークから1時間ほどのクリーブランドには、アメリカ国内でLAとここしかない世界的に有名なグラミー賞のミュージアムがある。2016年にオープンしたまだ目新しいミュージアムでは、同じ曲がLPレコードからカセットテープ、CDとどのように音が違うか聞くことができたりと体感型展示が面白い。グラミー賞の歴史やミシシッピ出身であるB.B.キングらの足跡などを通して、ブルースそして音楽がミシシッピ州の誇りであり魂の歴史であることが感じられるミュージアムだ。
■ ミシシッピ・ブルース・トレイル Mississippi Blues Trail
http://msbluestrail.org/
■ デルタ・ブルース・ミュージアム Delta Blues Museum
http://www.deltabluesmuseum.org
■ グラウンド・ゼロ・ブルース・クラブ Ground Zero Blues Club
http://www.groundzerobluesclub.com
■ グラミー・ミュージアム ・ミシシッピ Grammy Museum Misssissippi
http://www.grammymuseum.org/explore/grammy-museum-mississippi
*ミシシッピ州、州都のジャクソンからクラークスデールは約100km。
取材協力 ミシシッピ・リバー・カントリーUSA https://mrcusa.jp
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