ASEANとインドに相当する巨大市場
中南米進出の可能性を探る

New Business Close Up
アメリカで新たな事業を手がける人物をクローズアップするインタビューシリーズ。
初回は中南米の市場調査、進出の事前サポートを手がけるTWIグローバルビジネスの水野氏に聞く。

中南米地域で注目すべき市場は?

TWIグローバルビジネスエグゼクティブコンサルタント水野亮さん

TWIグローバルビジネス
エグゼクティブコンサルタント
水野亮さん

 最も注目されている市場はメキシコです。4年前の在メキシコの日系企業の数は400社程度だったと記憶していますが、現在では1,000社を超える勢いです。特にバヒオと呼ばれる中央高原地域への自動車系企業の進出が目立っています。メキシコ進出のメリットとして、まずは世界最大の市場アメリカとの隣接、すなわち地理的な優位性が挙げられます。次に安い労働力です。メキシコの工員の労働賃金水準はアメリカの約4分の1程度に過ぎません。広いFTAネットワークを有していることも魅力の一つです。メキシコが結ぶFTAを利用して、現地企業は米国や日本、EU、中南米諸国などへ関税免除で輸出できるのです。

 現在は低迷していますが、ブラジル市場も見逃せません。自動車中心のメキシコとは異なり、進出企業の業種は多種多様です。メキシコが主に輸出向け生産拠点として機能しているのに対し、2億超の人口を抱えるブラジルでは地産地消、つまり現地で生産して消費するタイプの事業が多く見られます。景気の激しい浮き沈みを繰り返してきた歴史から推測すると、数年後にはかならず回復する市場だと思います。

 その他では、プロサッカーチームのオーナーも務めたマウリシオ・マクリ氏が昨年大統領に就任したアルゼンチンが挙げられます。同国と聞けば前の左派政権が導入した様々な規制により、非常にビジネスがやりにくいイメージでした。マクリ新政権の誕生以降には「プロビジネス」的な政策が相次いで導入されています。中南米三位の経済規模をもつ同国への投資が進めば、近い将来有望な市場に成長すると期待できます。

中南米でビジネスを行うメリットは?

 日本の本社の多くはアジア地域を向いており、自動車で注目されるメキシコを除けば中南米の話題が出ることはあまりないようです。じつは中南米諸国のGDPを足しあげると、ASEANとインドを足した経済規模と同等程度になります。また、GDPの個人消費を見ると、中南米全体で中国の消費市場より大きくなります。アジアの新興国に引けをとらず、日本企業にとっても見逃せない市場だと考えられます。

日系企業がビジネスを展開するにあたっての障壁は?

 ラテン文化そのものが挙げられます。ある中南米の国の街角でレストランの場所を聞くとします。どの人も丁寧に道順を教えてくれます。しかし、言われた通りに行ってみて、目的地にたどり着ける可能性は低いです。たどり着くには複数の人に聞く必要があるかもしれません。彼らに悪気はありません。知らないのに、教えてあげたいだけなのです(笑)。日本の感覚で簡単に人の言うことを信じてしまうとしっぺ返しを受けることがあります。「親切だけどいい加減」。これはラテン文化の一つといえます。
 ブラジルの日系企業の方とお話しをしていると、現地でビジネスをするための5つの「あ」の心構えを耳にします。それは「あわてない、あせらない、あきらめない、あんしんしない、あてにしない」を指します。上述のレストランの場所を尋ねる例でいえば、「あんしんしない」や「あてにしない」の心構えが試されます。中南米の人とつきあうにはこのような心構えに基づく、柔軟な対応が求められます。

水野さん自身が最も印象的な中南米の国は?

 ブラジルに2001年から2003年まで住んでいました。2002年には日韓W杯で優勝したブラジルの代表チームが首都のブラジリアに凱旋して華やかなパレードを繰り広げたことが記憶に焼き付いています。当時のアルゼンチン債務危機やブラジルの電力危機、左派のルーラ大統領候補の台頭などを原因とした不安定な経済状況とは関係なく、人々は勝利に酔いしれました。ブラジルの人は自分の幸福を追求することに長けているように思います。それは貧乏な地域に暮らしていても頭上からマンゴーが落ちてきたり、夕方には海で釣りをしたりと、豊かな食料資源に恵まれていることからくる心のゆとりなのかもしれません。

TWIグローバルビジネスの10年後のイメージは?

 アメリカで日本と中南米の架け橋になりたいという思いでTeruko Weinberg Inc.にて新しい事業を立ち上げました。将来的にはロサンゼルスのみならず、ブラジルやメキシコなど主要国、またアメリカでもニューヨークや「中南米の首都」と言われるマイアミなどでも事業を展開し、中南米ビジネスのお手伝いができればと思っています。さらに日本の企業だけでなく、中南米や日本への進出を希望するアメリカ企業のお手伝いも視野に入れています。

PROFILE
米国、ブラジル、ドミニカ共和国、ニカラグアなどにおいて政府機関やマーケットリサーチ会社での駐在経験、前職の日本貿易振興機構(ジェトロ)在勤中には東京本部やニューヨーク事務所にて中南米・米国市場や通商政策などに関する調査業務に従事。「中南米ビジネス拠点の比較と米国企業の活用事例」「米国からの中南米市場戦略」「FTAガイドブック2007」など著書多数。連絡先はrmizuno@twinc.com

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