第51回 バス通学

文&写真/福田恵子(Text and photo by Keiko Fukuda)

Photo © Keiko Fukuda

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 私たちが暮らす市には高校が1校しかない。以前は我が家からも歩ける距離の場所にもう1校あったようだが、廃校になってしまった。跡地はグラウンドと体育館が名残を留めるのみで、市民のレクリエーションに活用されている。

 さて本題。そういうわけで家から高校までが遠い。ニナが高校に通学する足は、市が運営するビーチシティーズトランジットというバスだ。学生には乗り放題で月に8ドルの定期が発行される。キャッシュで払えば1回1ドルだから、朝夕利用するとして現金払いだと月に40ドル程度。なんと32ドルもお得。ただし、定期を入手するには、申し込み用紙に高校のアドミニストレーションのサインをもらい、さらに学生証と市内在住の証となる公共料金の請求書も持参した上で、市役所の交通課に申請しなければならない。写真も必要だ。まるでパスポートの申請。初回は私が市役所に同行した。交通課の女性はニナの兄のノアの時と変わっていない。親切で仕事も早い。そう言えば、私が受け取った駐車違反チケットの異議申し立てに行った時も「なぜ、それが誤ったチケットなのかという手紙を書いてください。こちらで検討します」と教えてくれた人でもある(そしてチケットは無効になった!)。まさに理想の公務員。彼女のyelpのページが開設されていれば星をたくさん差し上げたいほど。

 というわけでニナはその定期を使って、バスで帰ってくる。しかし、問題は生徒が殺到し、乗りたいバスに乗れないことが多いこと。乗りたいバスというのは、自宅の近くまで直行するエクスプレスというラインなのだが、エクスプレス以外だとショッピングモールまで遠回りしてから家の近くまで来るので時間が余計に掛かってしまう。最初は焦ってエクスプレスに乗ろうとしたようだが、最近は友達とおしゃべりするのが楽しみで遠回りも苦ではないようだ。

電車にも乗ったことがない

 思い返せば私の日本での高校時代もバス通学だった。しかもバスの乗り換えまであった。大抵は中学時代からの友達と一緒にバスに乗り、乗り換えのバスに遅れるとそれを理由にファミレスやファストフードで過ごした。バスの運転手にもお気に入りの人がいた。声が低くて響く人、乗客に対して丁寧だというのがお気に入りの条件だった。でも、そんな話を親にしたことなどない。

 しかし、今の子は違う。ニナはバスに乗るとLINEで「エクスプレスに乗れたよ!」と連絡をくれる。「今日はギャラリア(遠回りのルート)経由になってしまった」「マーヤと一緒だよ」「バスを降りたよ。あっつー」とまめに状況を教えてくれる。時には窓外の景色を写メに撮ったりもしてくれる。こうしてコミュニケーションを取りながら帰ってくるので親としても安心。思えばロサンゼルスの子どもは、親がドライバーとして送迎することがほとんどなので公共交通機関を利用する機会が極端に少ない。ちなみにニナが帰宅に利用するバスのラインの終点はメトロの駅だが、彼女は日本は別にして、ロサンゼルスで電車に乗ったことがない。だから高校生活の4年間だけでも、社会のルールを学べるチャンスになるバス通学を楽しんでほしいと思う。

 そして先週の週末、友人の不動産エージェントが、我が家から近い新築のタウンハウスのオープンハウスをしていたので見学に行った時のこと。4ベッドルーム4バスでコンテンポラリーな造り、2階のパティオからはハリウッドサインも望める。そのパティオから通りを見下ろした私が友人に言ったのは「あ、ここ、高校までのバスが通る道。子どもがいる人には便利ってお客さんには強調すべき」という言葉だった。

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福田恵子 (Keiko Fukuda)

福田恵子 (Keiko Fukuda)

ライタープロフィール

東京の情報出版社勤務を経て1992年渡米。同年より在米日本語雑誌の編集職を2003年まで務める。独立してフリーライターとなってからは、人物インタビュー、アメリカ事情を中心に日米の雑誌に寄稿。執筆業の他にもコーディネーション、翻訳、ローカライゼーション、市場調査、在米日系企業の広報のアウトソーシングなどを手掛けながら母親業にも奮闘中。モットーは入社式で女性取締役のスピーチにあった「ビジネスにマイペースは許されない」。慌ただしく東奔西走する日々を続け、気づけば業界経験30年。

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