華やかさに欠ける(?)主演男優賞
主演男優賞は、「Fences」の監督・主演のデンゼル・ワシントンが有力だが、監督賞を贈られる代わりに演技賞は”勘弁”となりそうな気配がする。自身のヒッピーな雰囲気と温かい性格がキャラクターに完全に一致して演技を昇華させた「Captain Fantastic」のヴィーゴ・モーテンセンも候補止まりとなるだろう。最有力候補は、罪の意識から“生きる”ことをあきらめた男の悲しみがスクリーンからひしひしと伝わってきた「Manchester by the Sea」のケイシー・アフレック。セクハラ問題はそれほど影響を及ぼさずにオスカーを手にする可能性が高い。そんなアフレックの強敵は、俳優組合賞で候補に挙がっている「Hacksaw Ridge」のアンドリュー・ガーフィールドだろう。恋の演技、信念を貫く演技は素晴らしいが、33歳という年齢や貫禄を鑑みると受賞はお預けになるかもしれない。
助演賞は誰の手に?
助演女優賞は、「Fences」のヴァイオラ・デイヴィスで決まりだろう。同名舞台劇の映画化で、いつにも増しての迫力演技を見せていた。「Hidden Figures」のオクタヴィア・スペンサーも捨てがたいが、これまで3度の候補入りを果たしながらも無冠で終わっている「Mancehster by the Sea」のミシェル・ウィリアムスが強敵となりそうだ。
助演男優賞は、「Moonlight」のマハーシャラ・アリか「Hell or High Water」のジェフ・ブリッジスがオスカーを手にするだろう。ただ、これまでのキャリアで最も演技力を試されたと言える役を演じきった「Florence Foster Jenkins」のヒュー・グラント、実話に基づく「Lion」で苦悩するインド人青年を感動的に演じたデヴ・パテルも認められるべき演技を披露していた。「Silence」のイッセー尾形は残念ながら候補入りしただけで万々歳という状況だ。
監督賞は、重鎮か? 若手か?
「Silence」のスコセッシ、「Fences」のワシントンのほかに監督賞枠に名を連ねそうなのが、「Hacksaw Ridge」で監督業に10年ぶりに復帰したメル・ギブソンだ。そんな中、「Moonlight」のバリー・ジェンキンス(37歳)、「La La Land」のダミアン・チャゼル(31歳)といった若手も候補入りし、ベテランとの戦いに挑むことになりそうだ。
作品賞は混戦模様
演技賞でも紹介した「Fences」、「Silence」、「Arrival」、「Lion」は確実に候補入りしそうだが、それ以外の有力作が「Patriots Day」だ。ボストン・マラソン爆弾テロ事件を描いた同作は、脚本と編集が素晴らしく、警察、被害者、テロリストの人生をリアルに描いた秀逸な作品。主演のマーク・ウォールバーグがプロデューサーも務めており、製作者として候補者に名前を連ねるだろう。
筆者が候補入りを切望する作品に「Eye in the Sky」がある。3月公開だったので印象が薄いが、反戦映画として抜きん出た作品だ。徴兵経験のある非アメリカ人監督(南アフリカ共和国出身のギャヴィン・フッド)ならではの現代のリアルな戦争描写は、志願兵全員に「志願する前に観ろ!」と言いたくなった。
そのほか、作品賞には「La La Land」、「Moonlight」、「Loving」、「Hidden Figures」も食い込むだろう。
昨年は、演技賞候補者の全員が白人となり、OscarsSoWhiteというハッシュタグと共に批判されたアカデミー賞。その反省と偶然の勢いで、今年は黒人パワーが炸裂となりそうだ。ひょっとしたら主演男優賞はワシントン、助演女優賞はデイヴィス、助演男優賞はアリ、監督賞はジェンキンスになる可能性もなきにしもあらずと予想する。
さあ、みなさんの予想はどうですか? 第89回アカデミー賞授賞式は2月26日にABC局で放送。
「Patriots Day」マーク・ウォールバーグに聞く
ボストン出身のマーク・ウォールバーグは、やんちゃな少年時代を過ごした後、ラッパーとしてデビュー。カルバン・クラインの下着モデルとなって話題を呼んだ後、映画俳優として活躍し、近年はプロデューサーとしての手腕も発揮している。ボストン出身者は故郷への愛着が強い。ウォールバーグがボストン・マラソン爆弾テロ事件を題材にした映画を製作するのも納得だ。映画を観ると、ボストンの街やボストンの人々の気質がキャラクターとして重要な役を演じていることがわかる。ボストンの特徴や誇りに思うことについて彼はこう答えた。
「ボストンは短期間でものすごく大きくなった街なんだ。子供の頃、それぞれのコミュニティーにバスで行ったのを覚えている。人種毎にエリアが大きく分かれていたからね。今回のような出来事が起きたとき、人々が互いに助け合うのを目の当たりにしてボストン出身だというのをものすごく誇りに思う。それをみんなと共有したかった。人々が一緒になって対応していたというのがとても嬉しい。“Boston Strong”の意味するところをこうして見せることができてとても誇りに思うよ。ただ、本作を作るのにものすごいプレッシャーがあったよ。顔を上げて堂々と帰省したいし、みんなに手を広げて迎えてもらいたいからね。だから、ひたすら良い作品を作ろうとがんばった。あの事件を映画化するには早すぎるのではないかと聞かれるけど、ぼくはもっと早くに作っておけば良かったと思っている。なぜなら、同じようなテロ事件はあの後も起きていて、これからも起きようとしている。ぼくらは手をつないでそれに対応する必要があるからなんだ」
Special thanks to Tina Theriot / GinsbergLibby
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