Vol.8 伝統を守り続ける先住民集落
タオス・プエブロ
− ニューメキシコ州 −

文/齋藤春菜(Text & Photo by Haruna Saito) 写真提供/New Mexico Tourism Department

世界遺産とは●
地球の生成と人類の歴史によって生み出され、未来へと受け継がれるべき人類共通の宝物としてユネスコの世界遺産条約に基づき登録された遺産。1972年のユネスコ総会で条約が採択され、1978年に第1号が選出された。2018年7月現在、167カ国で1092件(文化遺産845件、自然遺産209件、複合遺産38件)が登録されている。

1000年以上にわたり一つの部族が暮らし続けてきた集落。家族が増えるたびに部屋が拡張される仕組み

ニューメキシコ州の北部に位置する高台には、1000年以上前から先住民のプエブロ人たちが生活を築いてきた集落がある。ここはかつての文明を示す貴重な場でありながら、今も変わらずプエブロ人が伝統的な暮らしを守り続ける、まさに生きた遺産。

この地に現在残っている集落は11世紀から15世紀にかけて築かれたもので、現役で使われているアメリカ最古の家といわれているのだそう。地域の文化的発展やコミュニティ形成における重要な段階を示す証拠とされ、1992年に世界文化遺産に登録された。

構成資産は、複数階を持つ住宅建築や7つのキバ(地下にある儀式のための部屋)、4つの貝塚、教会建築などからなる。集落は塀で囲まれており、特に歴史ある地区として外界と一線を画している。最大の特徴が、アドビ建築と呼ばれる赤茶色の住宅。水と藁を混ぜた土で作られた日干しレンガを積み上げて、それを泥で塗り固めた分厚い壁の建築だ。隣り合う家々はすべてつながっているように見えるが、内部は1軒1軒仕切られている独立した建物。

もともと家には窓やドアがなく、出入口は天井に空いた穴だったという。ほかの部族による攻撃から守るための構造なのだそうだ。現在はカラフルなドアが取り付けられており、普通の家と同じように出入口がある。

タイムスリップしたかのような町を散策

昔はなかったが、今は各家にカラフルでかわいい窓やドアが

塀の内側では、今も150人ほどのプエブロ人たちが伝統的な暮らしを営んでいる。伝統的とはまさに言葉通り、電気も水道も使わない、昔ながらの生活だ。集落の一部は内部も公開されており、ありのままの生活を垣間見ることができる。散策していると、まるで何世紀も前にタイムスリップしたかのような気分になってくる。先祖代々の慣習やしきたりを脈々と受け継ぎ、守り続ける彼らのスタイルには、神聖さを感じるだろう。塀の外側ではプエブロ人たちが現代の暮らしを営んでおり、全体で2000人ほどの住人がいるのだそう。

タオス・プエブロの見どころの一つとなっているのが、サンジェロニモ教会。現在の建物は、オリジナルの教会がアメリカ軍とメキシコ軍の間の領土をめぐる戦いで1847年に破壊されたため、1850年に再建されたもの。日干しレンガの壁の一部分が真っ白に塗られた教会は、ひときわ目を引く。

サンジェロニモ教会の内部には、マリア像やステンドグラスもあるのだそう

また、それよりも前に建てられたオリジナルの教会も、今は廃墟としてその姿を残している。こちらは1619年に最初に建てられたものが1680年に起きた反乱で崩壊し、その後すぐに同じ場所に再建された教会跡。16世紀にメキシコの地へ進出したスペイン人はアメリカにも勢力を伸ばし、先住民をカトリックへと改宗させていった。そのため現在も、この地に住むプエブロ人たちのほとんどがカトリックの信者なのだそう。

周辺ではドリームキャッチャーや焼き物の壺など、先住民が作った工芸品が売られているので、おみやげにいかが。

遺産プロフィール
タオス・プエブロ
Taos Pueblo

登録年 1992年
遺産種別 世界文化遺産
https://taospueblo.com

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齋藤春菜 (Haruna Saito)

齋藤春菜 (Haruna Saito)

ライタープロフィール

物流会社で営業職、出版社で旅行雑誌の編集職を経て渡米。思い立ったら国内外を問わずふらりと旅に出ては、その地の文化や人々、景色を写真に収めて歩く。世界遺産検定1級所持。

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