短期集中連載
第3回 ポジティブ皮膚科学のススメ
かゆみとアレルギー

 今回はかゆみとアレルギーについての話です。

 まずはかゆみについて。人はかゆみを想像させるものを見ただけで、かゆみやかく行為を想起するといわれています。また皮膚表面には異常がなく、かゆみのみがある場合には皮膚掻痒症と診断されますが、最近の研究で、この皮膚掻痒症にかかると、血液と胆管のがん発症のリスクが高まることが指摘されています。さらに別の研究では、慢性的なかゆみによるストレスにより脳(記憶など)に影響を与える可能性が指摘されています。たかがかゆみと軽視できない場合もあるのです。

 次にアトピー性皮膚炎について、最近のいくつかの研究成果をお話しします。アトピー性皮膚炎発症のリスクについては、生まれてから1年以内のヨーグルト摂取が予防に寄与する可能性が指摘されています。また、アトピー性皮膚炎には、ビタミンDの不足が関与しているともいわれており、ビタミンDの不足を補充することで症状が改善する可能性も指摘されています。症状のコントロールがうまくなされていない場合には、高い気温と日光への暴露が関係しているとの指摘もあります。一方で、高い湿度については有意な関連性がなかったとも報告されています。さらには、母親の仕事とアトピー性皮膚炎の関連を考察している興味深い論文もあります。妊娠中に妊婦が労働していた場合、その間のストレスが、子どもがアトピー性皮膚炎になる割合を高めるともいわれています。この論文においては、母親が専門的な仕事に就いている場合には、子どもがアトピー性皮膚炎になる割合がさらに高まることも指摘しています。

 最後に手荒れで悩んでいる読者の方も多いと思いますが、ある分析結果では、全体の20%が手荒れによる仕事の病休、10%が転職へつながっていることも指摘されています。手荒れの治療開始のタイミングが遅れることは、改善の妨げとなることも指摘されていますので、たかが手荒れと放置せずに、早期の治療開始が大切です。

視覚でとらえられる皮膚は
心の持ちように影響する

 早いもので、連載は今回が最終回となりました。「ポジティブ皮膚科学」という新たなコンセプトを提唱したのは、私が世界で初めてのことと思います。従来の皮膚科学は、皮膚の病気という視点が中心であるのに対し、「ポジティブ皮膚科学」は医学を基軸としながらも、たとえば心理学や商学、政治経済学、理工学、環境学、情報学など多彩な学問領域との結びつきにより、皮膚科学を応用した横断的、学際的なコンセプトです。よって、「ポジティブ皮膚科学」は皮膚の病気を持つ方々だけでなく、一般の人々を広く対象としています。

 目的は、人々の気持ちを明るく前向きにすることに尽きます。私がこのコンセプトを考えるようになった直接のきっかけは、3.11、あの東日本大震災でした。皮膚科学には、とてつもない潜在力が宿っていると感じています。皮膚という臓器が直接視覚でとらえることのできる体表面に位置すること、美容やアンチエイジングといった領域との結びつきの強い診療科のひとつであることなどの理由から、人々の心の持ちように強く影響している学問分野であると思っているからです。日々の生活の中で、「ポジティブ皮膚科学」を意識することは、運を引き寄せ、人生を好転させていくきっかけになりうると考えています。これが、「ポジティブ皮膚科学」の大きなメリットです。

 私はこの「ポジティブ皮膚科学」の可能性を考えるたくさんのアイデアが、開拓精神溢れるカリフォルニアの地に詰まっているとも強く感じています。特にアメリカ第二の都市であるLAは、美肌・アンチエイジング分野におけるカルチャーの最先端都市です。また、エンターテインメントが盛んなLAにおいて、皮膚科学も人に夢を与え、人を幸せにすることができるとも確信しています。

 今後も「ポジティブ皮膚科学」というフィールドの構築を、自分のライフワークの一環として前進させていきたく思っています。

小川徹
皮膚科専門医。アメリカ皮膚科学会会員。ハーバード大学マサチューセッツ総合病院客員研究員。元ロンドン大学セントトーマス病院客員研究員。早稲田大学招聘研究員。元慶應義塾大学研究員。医学博士、MBA、公共政策の修士号を持つ。

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