〔韓国〕【年始インタビュー】20年も薄氷踏む日韓関係 ロー・ダニエル氏に聞く
- 2020年1月7日
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2019年は日本の対韓輸出管理強化を機に、日韓関係が極度に悪化した1年だった。年末には日韓が1年3カ月ぶりとなる首脳会談を行ったものの、元徴用工訴訟の原告が日本企業の資産を現金化する可能性もあり、20年も予断を許さない状況が続く。韓国の日本研究者で、東アジアの政治・経済リスクに関するコンサルティング会社「アジアリスクモニター」を運営するロー・ダニエル最高経営責任者(CEO)に今年の日韓関係の見通しを聞いた。
——昨年末に開催された日韓首脳会談をどう評価するか。
1年3カ月ぶりの首脳会談だったが、日韓関係をこれ以上悪化させないための取り組みとしては大きな意味があった。安倍晋三首相は文在寅(ムン・ジェイン)大統領のことを「紳士だ」と評価するなど、2人の個人的な人間関係は、メディアで伝えられているほど悪くはないということも分かった。今後の関係改善に向けた雰囲気作りになったのではないか。
——2011年に慰安婦問題への韓国政府の「不作為」を違憲と判断した韓国の憲法裁判所が昨年末、慰安婦合意を「違憲」とする元慰安婦の訴えを「審判請求の対象にはならない」と却下した。今後の日韓関係に肯定的な影響を与えるか。
日韓関係がこれ以上悪化する状況を避けようと、憲法裁判所が「政治的な判断」を下した点は大いに評価できる。韓国の大法院(最高裁判所)が日本企業に元徴用工への賠償を命じた判決の流れの中で、違憲判決を期待していた革新系の失望は大きかった。一方、「慰安婦合意は不可避な合意だった」という判決を望んでいた保守系にも不満が残った。憲法裁が今回、左右に配慮した判断を下したことで、元徴用工訴訟問題についても今後、バランスがとれた議論が韓国国内でも展開される可能性が出てきた。
——元徴用工訴訟の原告が日本企業の資産を現金化する可能性はどれくらいあるか。
可能性は五分五分だろう。文大統領としては現金化を避けたいのが本音。鍵を握るのは、韓国国会の文喜相(ムン・ヒサン)議長が提出した徴用工問題の解決を目指す法案の行方だ。日韓の企業と個人から寄付金を募って基金を創設し、賠償を肩代わりする内容が柱だが、日韓の企業が資金を出し合う財団案など従来の提案に比べて日本側の抵抗は少ない半面、原告や革新系の市民団体の反発が強い。文議長だけが政治的なリスクを負っているように見えるが、文大統領の暗黙的な同意があったと考えるのが自然だ。
問題は4月の国会議員選挙前の成立が難しい点だ。夏頃に成立するとしても、その間に資産が現金化されてしまえば意味がない。
——韓国の日本製品不買運動やボイコット・ジャパンはいつまで続きそうか。
すでに下火になっているとみていいだろう。経済的合理性に基づいたものではなく、結局は一過性の政治運動だった。韓国社会はこれから選挙モードに突入する。不買運動は一層、 勢いを失っていくはずだ。
逆に、不買運動やボイコット・ジャパンが長期化し、7月24日に開催式を迎える東京五輪の祝祭的な雰囲気に水を差すようなことがあった場合、日韓の関係改善の道は決定的に遠のく。反対に「韓国が東京五輪の成功に貢献した」と日本が認識すれば、日韓関係が一気に改善に向かう可能性も出てくる。東京五輪の成否は、今後の日韓関係の行方を決定する分水嶺となりそうだ。
総選挙は与党有利
——4月に開催される総選挙で政権与党「共に民主党」が敗北すれば、文政権は一気にレームダック(死に体)に向かうのか。その場合の日韓関係への影響は。
レームダックの可能性は高くないだろう。野党が勝利するには、朴槿恵(パク・クネ)前大統領の弾劾を機に分裂した保守派の結集が不可欠だが、そのために必要な理念とビジョンを提示できるリーダーが不在だ。
「5年任期で再選なし」という制度上、折り返し点を過ぎれば大統領の支持率が低下するのは避けられない。しかし、革新系与党の支持基盤の一部が離反し、文大統領の政権運営が困難になるという事態は考えにくい。日韓関係にとっても、文政権の安定はむしろプラスに作用する。資産の現金化などの「地雷」をうまく避けられるかもしれない。
北朝鮮は米国との交渉に集中
——昨年12月28日から31日まで4日間開催された朝鮮労働党中央委員会総会で、金正恩委員長は経済制裁を続ける米国を批判し、非核化交渉に臨む米国の姿勢次第では核開発や大陸間弾道ミサイル(ICBM)発射を再開する可能性を示した。20年の南北・米朝関係はどうなるか。
今後の北朝鮮の動向を理解するキーワードは、公開された議事録に23回も出てくる「正面突破」だ。米国と国連の経済制裁を突破するという意味で、米国との関係を切って、経済建設と核開発を同時に進める「並進路線」に回帰するということではない。あくまでも米国に向けたメッセージで、北朝鮮との対話を呼びかけている文大統領は、残念ながら正恩氏の眼中にはない。北朝鮮が中国やロシアとの関係改善に向かったとしても、それはあくまでも米国との駆け引きの一環であり、レバレッジ(てこ)を効かせるための長期戦に備えた戦術だろう。
4日間の総会は異例だ。北朝鮮が、正恩氏による独裁体制から集団指導体制に向かっているという証左でもある。そこで公開された議事録は、正恩委員長が恒例にしている新年の辞よりも意味が重い。(聞き手=坂部哲生)
政治経済学者、アジア歴史研究者、作家。韓国ソウル市生まれ。米国マサチューセッツ工科大学で比較政治経済論を専攻して博士号取得。香港科学技術大学助教授、中国人民銀行研究生部客員教授、上海同済大学客員教授、一橋大学客員研究員、国際日本文化研究センター外国人研究員、京都産業大学客員研究員などを経て、アジアリスクモニターを設立。日本での著作として「竹島密約」(2008/草思社、第21回「アジア・太平洋賞」大賞受賞)、『「地政心理」で語る半島と列島』(2017/藤原書店)がある。
情報提供:株式会社NNA
アジア13カ国の拠点から、毎日300本の記事を有料で配信。現地の生きた経済・ビジネス情報を日々、素早く手軽にキャッチできる。現在7000社、約1万6000人のビジネスパーソンが活用。
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