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- 第57回 アメリカにて、日本ワインを思う
以前リポートした通り、日本にはワイン法が存在しない。日本酒という古来の文化があっても、ワインという新しい飲み物は、まだ日本文化に根を下ろしているとは言い難い。日本でワインを醸造する場合、ワインメイキングは日本酒の酒造方法に基づいて管理される。その結果、欧米で当たり前の材料やテクノロジーも、日本酒製造の現場で使われていなければ、適用できない。
さらに問題なのが、「日本ワイン」の法的規定の欠如だ。市場に出回っている8割以上の「日本製」ワインは、大手酒造会社が、チリやオーストラリアなどから格安で輸入した冷凍ブドウジュースをワインに加工して、1000円以内で売っているものがほとんど。
「これではいけない」と気がついたのか、あるいは、オリンピック景気に備えた外国人目当ての商戦なのか、政府がやっと重い腰を上げた。日本ワインを、「国産ブドウのみを原料とし、日本国内で製造された果実酒」と定義し、2018年10月30日から法的に適用する。やっと日本も、ワインという西洋で確立された歴史的飲み物を、我が国の一部として認知したということなのだろうか。
とはいえ、現場でブドウ栽培やワイン造りに関わっている方々の苦労は、続いている。まず、ワイン用ブドウの栽培者が育っていない。皮が薄く、タネなしで、実が大きいアメリカ産の生食用ブドウなどでは、決して良いワインは造れない。それは、植民地時代から、ヨーロッパの移民が、アメリカの地場ブドウでワインを造ろうとしては、諦めてきた歴史が証明している。しかし、日本ではこの生食用のブドウに高値がつく。農家としては、得体の知れない「ワイン用のヨーロッパブドウ」など育てたくないというのが本音だ。結果、売れ残った生食用ブドウを潰して、とりあえず「飲める」ワインを造ってきた悪しき伝統が続いている。
今回の取材で出会ったのは、本格的にワイングレープの栽培に取り組む人たちだ。それはフランスやアメリカでワイン造りを学んだ帰国組や、代々のブドウ農家の後継者がワイン造りに目覚めたケース。大企業も広大な自社畑を使って、いろいろなトライアルを行っている。とはいえ、老齢化が進むブドウ農家は離農を考え始め、逆に簡単にワイン造りをしたいと夢見る若者が、ワインメイカーを目指し始める。そうなると、ブドウ不足はますます深刻になる。そして、優良なブドウからでしか、美しいワインは造れないという当たり前の事実。
前号では、日本のナチュラルワイン人気を特集したが、今の日本は「日本ワインブーム」だ。3500円も出せば、海外の高品質のワインを購入できると分かっていても、応援する心情で、日本のワイン(甲州・マスカットベーリーAや、生食用アメリカブドウ=デラウェア、コンコルドで作るワインなど)を買う。実際、膨大なインタビューを通して確信したことは、誰も日本のワインがとても美味しいとは思っていない事実だ。でも「あんなに頑張っているから、応援したい」という。
今では筆者も、日本人が日本のワインを応援したいという心情は理解できる。なぜなら、ワイン造りにまったく向かない高温多湿、大雨の風土にも関わらず、本当に熱心にブドウやワイン造りを研究し、励む姿を見てきたからだ。とはいえ、ビジネスの視点で見た場合、日本だけで通じる「甘え」が、生産者にも消費者にもある。要は「身内びいき」ということで、国内だけで通じても、海外の厳しい「自由競争」市場では、生き抜いていけないということ。今の日本ワインの質と値段では、まだまだ海外では通用しない。そういうアドバイスを会う人ごとにしてきた。と同時に、日本ワインの質をうんと上げて、来日する外国人に胸を張って振る舞える酒に成長させてほしい。そして、その中の一部でも、海外進出に値しうるブランドができたら……と願ってやまない。
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