Vol.21 豊かな水源が潤す自然美
オリンピック国立公園
− ワシントン州 −
文/齋藤春菜(Text by Haruna Saito) 写真提供/NPS Photo
- 2021年4月9日
- 2021年4月号掲載
世界遺産とは●
地球の生成と人類の歴史によって生み出され、未来へと受け継がれるべき人類共通の宝物としてユネスコの世界遺産条約に基づき登録された遺産。1972年のユネスコ総会で条約が採択され、1978年に第1号が選出された。2020年7月現在、167カ国で1121件(文化遺産869件、自然遺産213件、複合遺産39件)が登録されている。
ワシントン州の北西部、オリンピック半島に位置するオリンピック国立公園。約100万エーカーもの広大な敷地のうち、およそ95%は手つかずの自然が今も残っている。標高7980フィートの公園内最高峰となるオリンパス山を中心に広がるのは、山岳地帯、温帯雨林地帯、海岸地帯の3つのエリア。ワシントン州は、アメリカ国内でアラスカの次に氷河が多い地として知られており、今も多くの氷河が残っている。かつて氷河に覆われていた山岳地帯は長い年月をかけて浸食が進み、急峻な山々や深い峡谷が形成されていった。オリンパス山の西側の裾野では年間100~170インチもの大量の雨が降り、一帯が苔むした温帯雨林となっている。また、太平洋に面した全長73マイルもの海岸線は自然の姿を維持しており、美しい岬や断崖、沖に浮かぶ島々といった絶景が広がっている。この変化に富んだ地形と環境は、多様な動植物の生態系を生み出した。ほかでは見ることのできない自然美、そしてこの地で築かれた独特の生態系が評価され、1981年に世界自然遺産に登録された。
3つのエリアを満遍なく楽しむ
まずは、オリンピック国立公園の象徴とも言える温帯雨林地帯へ。ここにはホー・レインフォレストとキノート・レインフォレストと呼ばれる2つの森がある。ホー・レインフォレストに一歩足を踏み入れれば、そこは神秘的な苔の森。この公園内には、100種以上の苔が自生している。立ち並ぶ木々は皆、苔や地衣類でびっしりと覆われており、まるで緑のカーテンに閉ざされた秘密の楽園のようだ。キノート・レインフォレストでは、キノート川沿いに湖や小川、湿地が点在しており、ホー・レインフォレストとは違った雰囲気を楽しめる。温帯雨林をハイキングする際には、野生生物にも注目して欲しい。北アメリカ最大のエルク(ヘラジカ)であるルーズベルトエルクはこの地一帯を群れで行動しており、目撃率が高い。また、バナナスラッグという黄色いナメクジは太平洋岸北部の固有種で、大きさは6~8インチ、平均寿命は6年にもなるのだそう。雨林の中を歩けば、いたる所で彼らの足跡を見つけられるはず。
公園の北側に位置するクレセント湖は、氷河の浸食によってできた透明度の高い氷河湖。周辺にはロッジやレンジャー・ステーションなどがあり、かつてはルーズベルト大統領などの著名人も訪れたのだそう。ハイキングはもちろん、ボートやカヤックといった水上アクティビティも楽しめる。公園の西部、海岸エリアではカラロック・ビーチとルビー・ビーチが人気。美しい砂浜の向こうには真っ直ぐに伸びた水平線が広がり、一面が真っ赤に染まるサンセットには多くの人々が訪れる。アザラシやイルカの姿がよく見られ、運が良ければクジラやラッコも見られるチャンス。
オリンピック国立公園には固有種も多いので、生物に注目しながら楽しもう。
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