
ウェビナーの模様。サイトで公開されているダイジェスト版の動画は高校生によって編集された
ある時、SNSを通じてTASKIという教育サポートグループが主催するウェビナーのお知らせが届いた。ウェブサイトを見ると、同グループはアメリカで子育てをする保護者や子どもたちに向けた多様なテーマのセミナーを実施していることが分かった。早速、TASKIの高鳥由紀子さんに連絡を取ると、運営メンバー5人との合同取材が実現した。
由紀子さんによると、TASKIはもともと彼女が勤務している塾の保護者向けセミナーをオンラインに切り替えた後、アメリカの学校生活について知らせるという主旨に賛同した仲間が集まり新たに立ち上げたものだと言う。初回セミナーは2020年10月に開催された。
加藤直太郎さんは参加の経緯を次のように説明した。「僕自身、アメリカに生まれ育って、現地校と日本語補習校に通った。補習校に通ったのは母親の勧めによるものだったが、現在、英語と日本語を話せることに心から感謝している。僕が経験したことをTASKIで伝えたい、感謝の気持ちを次の世代に還元したいと思っている」。直太郎さんは現在、ブラウン大学の大学院生だ。続いて、直太郎さんの母親の尚子さんも「補習校では多くの子どもたちが宿題をこなすことで精一杯だった。でも、宿題をやることよりも大事なことがある。最終的に英語と日本語を両立できるようになるにはどうしたらいいか、その経験を伝えたいと思っている」と「経験の共有」を強調した。
子どもに合った進路を
木下勝二さんは「子どもの大学受験を通して、アメリカの受験制度が4年間に及ぶ長期戦であることを再認識し、感銘を受けた。ならば、日米のシステムの違いをできるだけ早い時期にセミナーを通じて知らせたいと思った」と語る。
また、小竹マコさんは「子どもが自立した人間に育つために、彼らが何に興味があるのかを発信しているヒントを逃さないようにしたい」と語った。長女がペンシルベニア大学に合格した体験談をセミナーで話した際に参加者たちから「どのような勉強をさせたのか」との質問が寄せられたと言うが、活動の目的はあくまで「子どもを優秀な大学に入れることではない」と断言する。その言葉を捕捉するように、木下さんが続けた。「実は参加者が期待していることと、私たちがやろうとしていることに乖離がある。有名校でなくてもいい、私たちのセミナーを通して子どもに合った進路を見つけられる、その一助になればうれしい。そのうえで子どもの興味を見出し、それを伸ばすようにサポートすれば、優秀な大学が評価してくれるという結果にもつながる」。さらに、由紀子さんは「日本人の親は、アメリカで不安に思いながら子育てをしている。しかし、私たちのセミナーで経験談を聞き、安心してもらえることがうれしい」と話す。
今後も保護者、子ども本人を講師に招き、テーマも大学受験に限定せずに範囲を広げて、多様な経験談をセミナーでシェアしていく計画だ。さらに、TASKIは運営側に高校生も参加させている。「夏休みにはボランティアを募って、TASKIのウェブサイトを完成させた。サイトの構成、イラストやアイコン作成、そしてセミナーの動画編集を、3人の高校生がそれぞれ担当した」とマコさん。
TASKIは次世代にタスキを渡すという意味で名付け、後から「Talk About our Stories and Knowledge Interactively(経験者が伝えるアメリカの学校と子育て)」というキャッチフレーズを加えたのだそうだ。私のアメリカでの子育ては終わってしまった。しかし、メンバーの話を聞きながら、もっと早くこのようなグループが立ち上がっていればと思わずにはいられなかった。そして何より、自分たちのためでなく、後に続く人たちのためにグループを立ち上げたTASKIメンバーに心からの敬意を表したい。
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