アメリカで働く際に注意すべきこと

情報提供/Kimura London & White LLP 木村ジョシュア弁護士

働き方に対する考え方は、アメリカと日本では大きく異なります。雇用、残業、休憩時間、ハラスメントへの対応、解雇などに関する法律上の違いだけでなく、コミュニケーションの取り方で日本の常識が通用しない場面も多くあり、アメリカで働く際にはさまざまな点で注意が必要です。

広く知られていることですが、アメリカでは雇用の際に人種、肌の色、宗教、性別、性的指向および性自認、妊娠の有無、出身国、年齢、身体的障害などを採用の基準にすることは違法とされており、求人広告にこれらを記載したり雇用後の査定や昇進の判断基準にしたりすることも許されません。差別の対象とされる年齢の目安は40歳とされています。面接の際に、配偶者やこどもの有無を聞くことは差別と受け取られる可能性があるため避けましょう(US Equal Employment Opportunity Commission https://www.eeoc.gov/prohibited-employment-policiespractices)。

最低賃金や残業手当、有給休暇に関しては連邦政府と各州政府によってそれぞれ規程があり、ExemptまたはNon-Exemptという2つの雇用形態によって適用が異なります。Non-Exemptの場合、基本的に1日8時間または週40時間を超えた場合に時給の1. 5倍を支払うことが義務付けられており、従業員のタイムカードを管理することも雇用主の責任です。カリフォルニア州法では4時間ごとに10分間の休憩と、5時間以上の勤務に30分の食事休憩を確保することが決められています。つまり、8時間勤務の場合には午前と午後に10分ずつの休憩と30分の食事休憩を保証することが必要です。組織の一員であることを重視する日本人は、仕事が終わるまでは担当者の責任で残業や休日出勤も仕方がないと捉える傾向にありますが、アメリカ人はWork-Life Balanceをより重要視する傾向が強く、仕事の進捗具合や取引先の事情とは関係なく休憩時間を取り、就業時間以降に仕事をしないことはごく普通のことと理解されています。残業手当や休憩時間が守られていなければ個人の権利が侵害されたとして訴訟を起こすことも決して珍しくありません。たとえ信頼関係があっても、勤務時間外に仕事のことで連絡を受けるのは時間外勤務を求められていると捉えられますので注意しましょう。

Exemptのステータスであれば、一般的に上述の残業手当や休憩時間に関する規程の対象外になりますが、残業手当を払わなくても済むように一般社員をExemptとして採用することは違法です。Exemptのステータスとなるためには役員や管理職または専門職のポジションで、ある程度の決定権があり、給与が一定以上なければならないと決められています。

アメリカの雇用契約は、ほとんどの州においてEmployment at Will (随意雇用)の原則に基づいています。これは雇用主・従業員の双方が、どんな理由であれ、あるいは何ら理由がなくてもいつでも自由に雇用契約を解約できるとする原則です。ただしこれには例外があり、解雇の理由が差別的なものであった場合は違法とされます。不当に解雇されたと主張するためには上記の差別的な理由によるものであったことを証明する必要があります。また弊社では、社内で嫌がらせを受けたというご相談を受けることが多くあります。日本でいうパワハラは「職務上の地位や人間関係などの職場内の優位性を背景に、業務の適正な範囲を超えて精神的・身体的苦痛を与える、または職場環境を悪化させる行為」と定義されているのに対し、アメリカの “Workplace Harassment”はより狭い範囲の行為に限定されており、その行為が上記の項目に該当する差別的なもの、または常識的に考えても勤務を継続することが困難と判断されるのに相当するレベルに達していなければ違法とは認められません。従業員に問題がある場合でも、他の社員の前で個人を叱責したりすることは社会的に認められません。まず良い点を指摘したうえで、問題点を直接本人にはっきりと伝えることが大切です。

Kimura London & White LLP

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