海外教育Navi 第105回
〜現地校や補習校での友達づくり〜〈前編〉

記事提供:月刊『海外子女教育』(公益財団法人 海外子女教育振興財団)

海外勤務にともなう子育てや日本語教育には、親も子どもも苦労することが多いのが現状。そんな駐在員のご家族のために、赴任時・海外勤務中・帰任時によく聞くお悩みを、海外子女教育振興財団の教育アドバイザー等が、一つひとつ解決すべくアドバイスをお届けします。

Q.子どもは引っ込み思案で、現地校でも補習校でも友達をつくれず悩んでいます。どうしたらよいのでしょうか。

はじめに

海外赴任に帯同して現地校(インターナショナルスクール含む)に入学させたけれど、日本人はほとんどいないし、英語もわからないので、友達ができない……。

ご自身のことならまだしも、お子さんが現地校になじめず苦しんでいるのを見るのは、ほんとうに胸が苦しくつらい思いをされていることでしょう。さらに週1回通う補習校でも友達ができないとのこと。

どちらの学校でも友達ができないとなると、その原因は子どもが「引っ込み思案だから」と考えてしまうかもしれません。周りの子どもが積極的に行動しているときに、我が子の消極的で遠慮しがちな行動を見ると、そのように思われることもあるでしょう。

「引っ込み思案」ということ

引っ込み思案であることは、とかくマイナス面で考えられがちですが、はたしてそうでしょうか。引っ込み思案の子どもは、慎重に行動するという特徴があります。周りの様子を冷静に見ていて理解が深いなどのプラス面もあります。

現地校や補習校で友達がなく、クラスの中でひとりぼっちというのは想像以上につらいものだろうと思いますが、子どもが苦しい状況にもかかわらず登校していることは、たいへん勇気あるがんばり屋さんといえます。

異文化のなかで暮らすことは、「引っ込み思案」のプラス面を残し、保護者のかたが願う積極性を持てる性格に変えていくことができるよいチャンスです。アメリカから日本に戻った帰国子女の子どもたちは、現地校に入学して驚いたことはアメリカ人の積極性だと言います。「答が多少違っていても自分の意見をはっきりと言うのに驚きました」という感想を多くの子どもたちが話してくれます。

友達をつくる方法

子どもが学校になじみ、友達ができて充実した楽しい学校生活を過ごしてほしいと願うのは保護者としてごく自然なことです。引っ込み思案のせいで積極的に行動できず友達ができなくて悩んでいるとなれば、その改善に向けて子どもも親も努力と工夫が必要でしょう。

①補習校で友達をつくる体験を積む。

補習校は、ふだん現地校で外国語づけの生活を送っている子どもたちにとって日本語で1日過ごすことができる数少ない場です。毎日、緊張のなかで過ごしている子どもたちがストレスを発散できるとともに、友達が明日へのエネルギーを与えてくれます。

友達をつくるには、勇気を持って自分から補習校に通ってくる子どもに声をかけること、そしてうまくいかなくてもあきらめずに、また同じように挑戦することです。いわば友達づくりの練習が必要です。

保護者は子どもを支援するために、子どもが友達づくりに失敗しても、挑戦する気持ちを褒めてください。そして補習校の先生に相談してみましょう。

補習校にはベテランの先生が多くいて、いろいろな子どもの扱いに慣れています。補習校で友達ができないのを悩んでいることを話し、友達ができるように援助してほしいとお願いしてみてください。こんな相談をしてもよいのかと迷うかもしれませんが、海外では保護者しか子どもを助けてほしいと言いだす人はいません。

補習校に通ってくる子どもたちはものわかりがよい子が多く、先生が友達になれそうな子どもに声をかけてくれるかもしれません。補習校で友達をつくることができれば、現地校での友達づくりにもつながるでしょう。成功体験を積むことが大切です。

②補習校での経験を生かし、現地校で友達をつくる。

現地校で友達をつくるには、ことばの壁もあって、補習校よりもハードルが高くなります。生活言語がわからなくては、補習校のように声をかけることもできません。

アメリカの現地校で4、5年過ごし英語を不自由なく話せるようになった帰国子女でも、現地校に入ってからの半年間は何もわからずに、「イエス」「ノー」しか言えなかったという話も聞きます。

このように現地校に通いはじめてしばらく続く「緊張期」とサバイバルするための生活言語を覚えたあとの「弛緩期」を乗り越えて、子どもは現地に適応していきます。

なお、この期間の長さは子どもによっても大きく異なります。現地校でクラスの子と話ができるようになるための時間は、友達をつくるうえで必要な時間といえるでしょう。

→「第106回 〜現地校や補習校での友達づくり〜<後編>」を読む。

今回の相談員
海外子女教育振興財団 教育アドバイザー  
清水賢司

日本へ返還直後の小笠原村母島小・中学校にて教員生活を開始。東京都公立中学校長、ラスパルマス日本人学校およびテヘラン日本人学校の校長などを歴任し現職。全国海外子女教育国際理解教育研究協議会幹事、今年6月より本田技研工業株式会社の専任教育相談アドバイザーを務める。

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公益財団法人 海外子女教育振興財団 (Japan Overseas Educational Services)

公益財団法人 海外子女教育振興財団 (Japan Overseas Educational Services)

ライタープロフィール

昭和46年(1971)1月、外務省・文部省(現・文部科学省)共管の財団法人として、海外子女教育振興財団(JOES)が設立。日本の経済活動の国際化にともない重要な課題となっている、日本人駐在員が帯同する子どもたちの教育サポートへの取り組みを始める。平成23年(2011)4月には内閣府の認定を受け、公益財団法人へと移行。新たな一歩を踏み出した。現在、海外に在住している義務教育年齢の子どもたちは約8万4000人。JOESは、海外進出企業・団体・帰国子女受入校の互助組織、すなわち良きパートナーとして、持てる機能を十分に発揮し、その使命を果たしてきた。

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