はじめてのおつかい

文&写真/福田恵子(Text and photo by Keiko Fukuda)

動画配信サービスのNetflixで『はじめてのおつかい』が人気だ。英語のタイトルは『Old Enough!』、つまり「十分おつかいできる年齢」という意味。日本に住んでいた頃、この番組を見ても疑問は一切湧かず、親のミッションを果たそうとする健気な子どもたちに感動して涙するだけだった。しかし、アメリカで育児を経験した後にこの番組を見ると、「いかに日本が平和な国か」という本来の番組のコンセプトとは離れた感想を持つようになる。

アメリカ在住者なら知っているように、アメリカでは13歳くらいまでの子どもをベビーシッターを付けずに家に置いておいたり、子どもだけで外出させたりすると育児放棄とみなされ、通報されれば保護者が逮捕されることもある。随分昔だが、ロサンゼルスに滞在中の日本からの観光客の夫婦が、寝ている子どもを起こすのはかわいそうだからと駐車した車の中に置き去りにして買い物に出かけ、警備員に通報されて逮捕されたことも実際にあった。

よって、アメリカに鍵っ子は存在しない。逮捕されるような危険を冒してまで、子どもに留守番させる親はほとんどいない。結果、働く親は学校の放課後に子どもを預かってくれる施設探しに奔走することになる。多くの学区が宿題をさせながら子どもを預かるアフタースクールプログラムや、勉強はしないけれどスポーツやクラフト、ビデオ鑑賞で遊ばせるプログラムなどを運営している。パブリック以外にも、学校に子どもを迎えに行き、勉強させながら預かってくれる私塾もある。アメリカでは常に大人の目の届くところに子どもたちは置かれるのだ。

同じものを見ても

そういうわけで、子どもだけで、それも3歳や4歳といった学齢にも達していない子ども一人、または子どもだけで親の目の届かないところまでおつかいに行かせるという番組に、アメリカの視聴者は驚きを隠せない様子。あまりにも危険で無茶だと思ってしまうのだ。そういった海外での意見に対して、「子どもだけではなく、カメラマンを含む番組のスタッフが常に周囲を取り囲んでいるので決して危険ではない」と番組側では説明しているというが、根本にあるのは文化の違いだ。番組に出演する子どもたちは安全かもしれないが、アメリカではもともと幼い子どもをおつかいに行かせようという発想は生まれないし、環境や法律的に行かせることもできない。

そして、「ある年齢になるまで子どもだけで行動できない」という認識は、親だけでなく子どもたちにも染み付いている。15年以上前、当時小学生だった長男のノアとまだプレスクールのニナを連れて日本に帰省した時のこと。博多駅の巨大な構内を制服姿の小学生が一人で歩いている姿を見たノアが、「なぜ子どもが一人でいるの? 親はどこ? 信じられない」と思わず口にした。私の頭の中は日本に行けば日本式に切り替わるので、不思議ともなんとも思わなかったが、アメリカ生まれ育ちのノアにとっては「一人で行動する子ども」はショッキングに映ったようだ。

文化が違うと、同じものを見ても受け取り方が異なる例は他にもある。今年のアカデミー賞授賞式で妻のヘアスタイルをクリス・ロックにからかわれたと思ったウィル・スミスが、ロックに暴力で対抗した1件だ。日本では「言ってはいけないことを言ったのだからロックに非があるし、妻の名誉を守ろうとしたスミスは男らしい」とスミス側に立つ人が少なくない。一方、アメリカではかなり辛辣なジョークを受け入れる土壌があるということ、また暴力は絶対に許されないという「ゼロ・トレランス」の教育が小学校から徹底されていることから、ロック派が多数だ。

さて、私はニナが『はじめてのおつかい』を見てどんな感想を持つかを知りたいと思い、「一緒に見ない?」と言ってみた。彼女の答えは「うーん、あんまり興味ないかな」だった。残念。

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福田恵子 (Keiko Fukuda)

福田恵子 (Keiko Fukuda)

ライタープロフィール

東京の情報出版社勤務を経て1992年渡米。同年より在米日本語雑誌の編集職を2003年まで務める。独立してフリーライターとなってからは、人物インタビュー、アメリカ事情を中心に日米の雑誌に寄稿。執筆業の他にもコーディネーション、翻訳、ローカライゼーション、市場調査、在米日系企業の広報のアウトソーシングなどを手掛けながら母親業にも奮闘中。モットーは入社式で女性取締役のスピーチにあった「ビジネスにマイペースは許されない」。慌ただしく東奔西走する日々を続け、気づけば業界経験30年。

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