Vol.34 先住民の聖なる地
ライティング・オン・ストーン
− カナダ アルバータ州 −

キノコのような不思議な形に削られた無数の岩の柱が立ち並ぶライティング・オン・ストーン ©︎Jan Mosimann/flickr

カナダからメキシコにかけて、北米大陸を縦断するように広がるグレートプレーンズ(大平原)。その北側、カナダとアメリカの国境にまたがるミルクリバー・バレーは、約8500万年前に浸食によって露出した堆積岩が見られる峡谷だ。氷河期が終わった後に大量の雪解け水が流れ出したことにより砂岩が削られ、この地一帯はユニークな地形へと変化を遂げた。そのもっともたるものが、フードゥーと呼ばれる岩の柱。まるでキノコのような形をしたこの岩の柱は、長い時間をかけて堆積した硬い砂岩の層の下にある柔らかい砂岩の層が、風雨の浸食や風化で上の層よりも細く削られることによって形成された。ミルクリバー・バレーには無数のフードゥーが立ち並んでおり、この奇岩群が世界的にも稀な地質景観を生み出しているのだ。

さらにこの地を特別な景観たらしめているものが、岩壁に描かれた先住民による壁画の数々。ミルクリバー・バレーに広がる岩壁には、かつてこの地に住んでいたブラックフット族が刻んだ壁画が今も残っている。壁画はバイソンなどの動物のほか、狩りをする人々や武器を手にする人々などさまざま。これらの壁画は、何千年にもわたって先住民によって刻まれ続けてきた。現在残っているものでもっとも古いのは3500~4500年ほど前に刻まれたもので、大半は1750年前から近年までのものと考えられている。考古学的研究から、この地には少なくとも1万年前から人々が生活を営んでいたことが分かっている。この場所を聖なる地と考えたブラックフット族の伝統や儀式は、長い歳月を経て現代へと伝えられてきたのだ。

これらの考古学的遺跡は先住民の生活と伝統を伝える貴重な物証として評価され、2019年に「ライティング・オン・ストーン」として世界文化遺産に登録された。

氷河が育んだ聖なる峡谷

ライティング・オン・ストーンのハイライトを見尽くすには、Matapiiksi (Hoodoo) Trailは外せない。往復3マイルほどのこのトレイル沿いには、氷河によって形成されたさまざまな奇岩のフォーメーションが見られる。奇岩群や、それを縫うように緩やかな曲線を描いて流れるミルクリバー、平原の向こうに広がる山脈など、かつてブラックフット族が聖なる場所と崇めた景観を眺めながら峡谷を歩き、壁画が広がるエリアへ。ここには何千もの壁画が描かれており、ブラックフット族の伝統的な習慣や伝説、この土地との深いつながりを示す儀式などを読み取ることができる。また、奥へ進むと、神聖な動物とされていたバイソンやグリズリーベアの姿や狩りをする人々の姿、さらに奥へ進むと銃や武器を持った人々が戦う戦場が描かれた壁画などもあり、時代とともに移り変わる生活の様子を見て取れる。ぜひ一つひとつの壁画をじっくりと見て欲しい。

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齋藤春菜 (Haruna Saito)

齋藤春菜 (Haruna Saito)

ライタープロフィール

物流会社で営業職、出版社で旅行雑誌の編集職を経て渡米。思い立ったら国内外を問わずふらりと旅に出ては、その地の文化や人々、景色を写真に収めて歩く。世界遺産検定1級所持。

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