ラーメンは人を救う!?
『ラーメン食いてぇ!』ワールドプレミア
Text & Photos by Haruna Saito
- 2018年8月21日
2018年8月18・19日の2日間、日本の映画を海外へと発信する「ロサンゼルス日本映画祭(Japan Film Festival Los Angeles)」が開催された。リトルトーキョーとコスタメサの2カ所を会場に20作品以上が公開されたなかで、今回クローズアップしたのが、ラーメン屋を取り巻く人々の人間模様を描いた『ラーメン食いてぇ!』。
そのダイナミックなタイトルからして、見る前から好奇心が湧いてくる。冒頭のシーンで突然、中央アジアの雄大な高原が映し出された時に「あれ、この映画で合ってるよね?」と思わず確認したくなるそのユニークな出だしは、観客をグッとスクリーンにのめり込ませた。
学校でいじめに遭い自殺を図った女子高生と、妻を亡くして生きる希望を見失った夫、ウイグル自治区で遭難した料理研究家など、さまざまな苦しみに苛まれる登場人物たちが、ラーメンという素朴な目標から生きる希望を取り戻していく、笑いあり涙ありの感動作。
19日(日)の上映後には、同作を手がけた熊谷祐紀監督と企画・プロデューサーの鈴木仁行さん、同じくプロデューサーを務めた林あゆみさんが、舞台挨拶と記者会見を行った。
台本のようなストーリー展開に魅せられて
同作は、林明輝さんによる漫画が原作となっている。企画を務めた鈴木さんは、「僕はそんなに漫画を見るほうじゃないんですが、たまたまネット上の漫画を見かけたんです。いきなり山岳地帯での遭難シーンから始まって、ラーメンをテーマにしたストーリー展開がすごくおもしろかったんですよ。ものすごく速い展開で、しかも感動するストーリーだったので一気に読んじゃって、これは映画の台本になっているようだなと。原作者さんにアプローチしたら、ぜひ、ということになって、それが映画化のきっかけですね」と話す。
ラーメンの映画として、特にラーメン作りの工程にこだわったと話すのは、熊谷監督。「脚本を書く前に、原作の舞台となったお店でラーメン作りを一通り教えてもらいました。少し時間はかかりましたが、工程を一つずつきっちり撮影したので、ラーメンのVPみたいになっています(笑)。僕はすべて写真と動画とメモで残しているので、もう見れば作れちゃう完全レシピみたいなものを持っているんです」。
また、鈴木さんは「昔流行った『タンポポ』という映画を見て、いろんな国の人たちがラーメンの作り方を覚えたという話をよく聞きます。それよりももっと、これを見たら作れるぞっていうハウツーみたいな感じで撮影しましたね」と話す。
キルギスでの撮影はハプニングだらけ
冒頭に出てくる高原のシーンは、中央アジアにあるキルギスの山岳地帯で撮影したのだそう。「まず、日本から現場に行くのに2日かかります。そして標高が4000メートルくらいあり、撮影隊には医者とシェフも帯同したんですが、スタッフが次々と体調を崩して、人がいなくなっちゃうんじゃないかと思いました」と熊谷監督は笑う。
さらに、遭難した料理研究家の赤星と仲良しになったポチ(ヤギ)の撮影シーンで、朝の撮影で現場に行くと、用意してもらっていたヤギがいなくなっていたのだという。「なんでいないんだ? と聞くと、すみません、昨日の夜、狼に襲われましたって(笑)。なので急遽、別の山からとっ捕まえてきたヤギで撮影するなど、大変でした」とハプニングエピソードを語ってくれた。
山岳地帯のシーンで登場する遊牧民族は、日本語を話す青年カシムを演じた役者以外、すべて撮影場所で実際に暮らしている人々を見つけて出演依頼をした、まったくの素人なのだそう。ありのままの自然な雰囲気がまた良い味を出しているキルギスのシーンにも、ぜひ注目していただきたい。
海外展開も視野に入れた映画を
今回のJFFLAへの出品について、プロデューサーの林さんは「数少ない中の1作として選んでもらえて嬉しいです。リトルトーキョーでの上映ということで、日本のことをリアルに分かってもらえる方と、欧米系の方と両方に観てもらえて温かさを感じました」と話す。
熊谷監督は「海外展開を考えていたので、その第一歩ということですごく嬉しいです。人間の繋がりは、世界共通のテーマなのかなって思っています。今回の映画もそうですが、“ラーメン”みたいな何か一つのテーマがあって、それを通して人と人との関わりみたいな人間模様を、今後も描けたらいいなと思っています」と意気込みを語った。
『ラーメン食いてぇ!』公式HP:http://ramen-kuitee.com
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