【ニューヨーク不動産最前線】ブローカーコミッション

2024年1月から、ニューヨーク市の不動産市場において新しい規則が施行されています。この規則は不動産売買におけるブローカーへの手数料に関するものです。この変更により、売主はバイヤーズエージェント(買主の代理人)に直接手数料を支払うことが求められています。これまでは、売主はリスティングを始める前にリスティングエージェント(売主の代理人)と相談して一括の手数料を決めており、買主が決まった時に売主と買主のエージェントがこの手数料を折半するのが一般的でした。

新しい規則では、リスティングエージェントはバイヤーズエージェントに対して手数料を支払うことができなくなったために、売主が直接バイヤーズエージェントに手数料をオファーする必要があります。手数料の金額は売主が自由に決められるため、バイヤーズエージェントはそれを受け入れるか拒否するか、もしくは交渉することが求められます。

売主がバイヤーズエージェントに手数料をまったく支払いたくない場合や、非常に低い金額しか支払いたくない場合、バイヤーズエージェントはその手数料を買主に求める必要が生じます。このため、今度は買主がバイヤーズエージェントに手数料を支払うという可能性が出てきました。買主が手数料を支払いたくない場合は、バイヤーズエージェントを利用せずに自力で物件を探す可能性もあります。

この新規制は市場の透明性を高めることを目的としているようですが、実際には市場を混乱させる結果となる可能性があります。買主にとっては、物件によって購入価格に加えてエージェントの手数料を支払う必要が生じ、交渉事項が増えて複雑になる恐れがあります。そして何よりも、複雑な物件購入をエージェントを頼らずに自力でやらなければならないというリスクがあります。

さらに、オプトアウトリスティング(公開を望まない物件)に関する新しいルールが導入されようとしており、これはリスティングの際にバイヤーズエージェントへの手数料を表示してはならないというルールです。これが施行されると、バイヤーは内見の段階では物件がバイヤーズエージェントの手数料を負担しなければならないかどうか分からなくなります。マーケットの透明性を謳う一方で、実際には誰も得をしない状況、かつエージェント不在のバイヤーがリスクにさらされるという状況が生まれつつあります。

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柏原知子 (Tomoko Kashihara)

柏原知子 (Tomoko Kashihara)

ライタープロフィール

大阪女子大学(現:大阪府立大学)卒業後、CBRE Japanに入社。東京で外資系企業のオフィス移転を担当する商業不動産ブローカーとして働いた後、ニューヨーク勤務を機に住宅ブローカーに転向。1999年より住友不動産販売NYで活躍した後、2021年に米系大手Compassに移籍。趣味は旅行、クルーズ、トレッキングとイタリア語。

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