Health Savings Account(HSA)とは

今年も職場やMarketplaceの健康保険のOpen Enrollmentの時期になりました。Health Savings Account(HSA)をご存知ですか。HSAは、医療費の支払いに使えるチェッキング口座のようなものですが、優れた税制優遇の特徴を持っており、リタイア後のための資産形成にも使えます。今回の記事では、このHSAについて詳しく紹介します。

HSAのトリプル・アドバンテージ
税制優遇のある投資口座には、401(k)やIRA、Roth IRAなどがありますが、それらとHSAを比較すると下表のようになります。HSAだけが拠出時、運用時、(医療費支払いのための)引き出し時ともに非課税と、どの段階でも課税されない特徴を持っています。トリプル・アドバンテージと呼ばれることもあります。

これがどういうことか、経済効果を考えてみます。もし手取り(所得税課税後)の給与から1万ドルの医療費を払ったとしたら、額面(所得税課税前)の給与は1万ドル以上必要になります。税率によって異なる必要額面所得は、以下の通りです。

HSAからの支払いであれば、額面所得1万ドルで済みます。額面所得1万ドルに対する所得税を免除してくれているので、その分は医療費補助と考えることができます。そうすると、例えば所得税率22%の場合、経済効果は以下の図式になります。

HSAを医療費以外の支出に使ってしまうと、所得税のほかに20%のペナルティがかかってしまいますので、ご注意ください。ただし、65歳以降は、医療費以外の支出に使ってもペナルティはかかりません(所得税はかかります)。したがって、65歳以降は医療費以外の支出に対しても、Traditional 401(k)/IRAのように利用することができます(医療費支出は引き続き非課税)。

また、HSAから非課税で支払える医療費(IRS Publication 969Publication 502で規定)はDentalやVisionも含めて幅広く、一部の保険料も含まれます。以下の保険料は、HSAから非課税で支払えます。

・65歳以上の人のメディケア保険料(除くメディギャップ)
・長期介護保険(制限あり)
・COBRA

HSAを開設するには
HSAを開設できるのは、IRSが規定するHigh deductible health plan (HDHP)に加入している人に限られます。勤務先から提供される保険やACA Marketplaceで加入する保険には、HSAを開くことができるタイプかどうかの情報が明示されています。HDHPは、IRSが定める水準以上のDeductible(保険支払いが始まる前の自己負担金額)がある保険のことです。

Deductibleが低い(HDHPではない)保険の方が適している方は、Flexible Spending Account(FSA)を利用するといいでしょう。HSAと同じく、拠出時・医療費支払い時に非課税になります。ただし、毎年使い切らなかったお金は放棄することになるので、拠出は使い切ることが確実な金額の範囲内にする必要があります。

HSAの口座は加入する保険会社ではなく、別の金融機関に開設します。勤務先提供の保険の場合、金融機関が指定されているかもしれません。ACA Marketplaceで加入する保険の場合、ファンドの品ぞろえや滞留資金への付利の有無・水準、口座維持手数料、オンラインの使い勝手などから、自分で選ぶことができます。Morningstar社がHSA提供機関を調査・格付けしていますので、こちらのThe Best HSA Providers for 2024を参考にしてみください。口座開設後は、支払いに使うためのデビット・カードが送られてきます。

なお、HSAに拠出できる金額には、401(k)、IRAなどのように年間上限があります。2024年は、以下の通りです。

Single coverage: 55歳未満$4,150、55歳以上$5,150
Family coverage: 55歳未満$8,300、55歳以上$9,300

まとめ
HSAはHDHPに加入していることが条件になりますが、拠出、運用、医療費支払いのための引き出しの三段階で非課税になるという、優れた特徴を持っています。

また、65歳以降は医療費以外でもペナルティなしで引き出しができますので、Traditional 401(k)/IRAのように使うこともできます。また、メディケア保険料(メディギャップを除く)が非課税支出の対象であることも見逃せません。

よく分からないのでHSAを作ってなかった、あまり拠出してなかったという方は、開設や追加拠出を検討してみてはいかがでしょうか。拠出期限は、IRAと同じく、翌年の確定申告期限(4月15日)です。

この記事が気に入りましたか?

US FrontLineは毎日アメリカの最新情報を日本語でお届けします

後藤浩 (Hiroshi Goto)

後藤浩 (Hiroshi Goto)

ライタープロフィール

Goto Financial Advisory LLC 代表
東京大学経済学部卒。早稲田大学大学院経営管理研究科修士(MBA)第一生命、PwC勤務後、年金基金向け運用コンサルタント、米系資産運用会社の執行役員など25年の資産運用業界経験を有する。2023年に在米日本人のためのフィナンシャル・プランニング法人、Goto Financial Advisory LLC設立。 リタイアメント・プランニングに役立つブログ多数掲載中。 2019年よりテネシー州在住。Sister City of Nashville 理事。資格:CFA協会認定証券アナリスト、米国税理士、認定ソーシャル・セキュリティ・アナリスト

この著者への感想・コメントはこちらから

Name / お名前*

Email*

Comment / 本文

この著者の最新の記事

関連記事

アメリカの移民法・ビザ
アメリカから日本への帰国
アメリカのビジネス
アメリカの人材採用

注目の記事

  1. 2025年2月8日

    旅先の美術館
    Norton Museum of Art / West Palm Beach フロリダはウエ...
  2. 約6億年も昔の生物たちの姿が鮮明に残るミステイクン・ポイントは、世界中の研究者から注目を集めている...
  3. 本稿は、特に日系企業で1年を通して米国に滞在する駐在員が連邦税務申告書「Form 1040」を自身...
  4. ニューヨーク市内で「一軒家」を探すのは至難の業です。というのも、広い敷地に建てられた一軒家...
  5. 鎌倉の日本家屋 娘家族が今、7週間日本を旅行している。昨年はイタリアに2カ月旅した。毎年異...
  6. 「石炭紀のガラパゴス」として知られ、石炭紀後期のペンシルバニア紀の地層が世界でもっとも広範囲に広が...
  7. ジャパニーズウイスキー 人気はどこから始まった? ウイスキー好きならJapanese...
  8. 日本からアメリカへと事業を拡大したMorinaga Amerca,Inc.のCEOを務める河辺輝宏...
ページ上部へ戻る