年末までに済ませたいキャピタル・ゲイン課税対策

昨年今年と株式市場が好調でしたので、売却した個別銘柄やファンドでキャピタル・ゲイン(売買益)があった方が多いかもしれません。この記事では、課税口座での証券投資を念頭に、アメリカのキャピタル・ゲイン税制について確認し、節税につながるテクニックを紹介します。

アメリカのキャピタル・ゲイン税制

キャピタル・ゲイン/ロスとは、資産の売却から生じる利益/損失のことです。取得から1年以下は短期、1年超は長期のカテゴリーになり、課税の取り扱いが異なります。

計算プロセスとしては、
①資産を売却した際の利益/損失を短期/長期カテゴリーごとに合計します。

②短期、長期カテゴリーともに利益が残った場合は、後で述べるプロセスでカテゴリー別に税額を計算します。

③短期の損失と長期の利益、または短期の利益と長期の損失があった場合は、それらを相殺します。

④相殺後に利益が残った場合、残った利益が短期か長期かによって該当カテゴリーのプロセスに沿って税額を算出します。

⑤相殺後に損失が残った場合、$3,000まではその年のOrdinary Income(給与所得など)から控除することができます(Ordinary Incomeを減らす効果)。$3,000を超える損失は、(短期、長期のカテゴリーを維持したまま)次年度に繰り越し、次年度の①のプロセスに入れます。

次に、短期、長期のカテゴリーごとの税額計算を見てみましょう。
短期キャピタル・ゲインは、他のOrdinary Incomeに加算され、所定の累進税率(下表は2024年)で課税されます。

一方、長期キャピタル・ゲインは、下表の税率(2024)を使います。Ordinary Incomeと長期キャピタル・ゲインの税率を比較すると、長期キャピタル・ゲインの方がOrdinary Incomeより税率が低くなっています。したがってキャピタル・ゲイン課税は、長期保有を促す仕組みと言えます。

なお、単身者で$200,000、夫婦合算申告で$250,000以上のModified Adjusted Gross Incomeの場合、キャピタル・ゲインにNet Investment Income Tax 3.8%という別の税がかかります(つまり、キャピタル・ゲインにかかる税率が合計で18.8%、23.8%になります)。

節税につながるテクニック

キャピタル・ゲイン/ロスの相殺を利用した節税として、含み損失を抱えた銘柄を売却してキャピタル・ロスを実現し、キャピタル・ゲインを減らす方法があります。Tax Loss Harvestingと呼ばれています。含み損失があり将来的にも魅力度が低い銘柄があれば、キャピタル・ゲインを減らして節税に使うという考え方です。

注意点として、Wash Saleと呼ばれるルールがあり、売却日の前後30日以内(売却日を中心とする61日間)に同じ銘柄(substantially identical)を購入していると、その分の損失は認められず、取得原価に組み入れられてしまいます(つまり、将来の売却時に損失を繰り延べる)。

Substantially identicalの判断基準は必ずしも明確ではありません。もちろん全く同一の銘柄であればSubstantially identicalになりますが、例えば運用内容が極めて近くても、運用会社が異なるファンドはSubstantially identicalになりません。つまり、運用会社Aのインデックス・ファンドを売却し、ただちに運用会社Bの同インデックス・ファンドを購入することにより、Tax Loss Harvestingを行うことは可能です。

逆にTax Gain Harvestingと言えるようなテクニックもあります。これはリタイア後などにTaxable Incomeが低くなる年があれば、長期(1年超)保有した銘柄を売却し、課税を少なく済ませるというものです。

上記の長期キャピタル・ゲイン税率表のとおり、Taxable Incomeが単身で$47,025まで、夫婦合算申告で$94,050までの部分は、税率0%です。例えば、夫婦合算申告でOrdinary Income由来(Traditional 401(k)/IRAからの引き出し、ソーシャル・セキュリティのうちの課税対象所得、日本の年金収入など)のTaxable Incomeが$64,050だったとします。この時、長期キャピタル・ゲインが$50,000であれば、$30,000 (=$94,050-$64,050)は税率0%、残り$20,000に税率15%が適用されます。

Capital Gain Distributionsに注意

Mutual FundやETFが、当年中にファンド内で生じたキャピタル・ゲインを投資家に分配することがあります。これをCapital Gain Distributionsと言い、通常12月中に分配されます。このCapital Gain Distributionsは、短期分はOrdinary Income(短期キャピタル・ロスとの相殺はなし)、長期分は投資家の税額計算の中で長期キャピタル・ゲインとして扱われます。

自分の売買についてキャピタル・ゲイン/ロスをうまく管理していても、保有しているファンドから意図せずCapital Gain Distributionsが出るということがあるかもしれません。例えば2021年に、VanguardがTarget Date Fundで大きなCapital Gain Distributionsを行い、投資家を驚かせたことがありました。

運用会社は11月ごろにファンドごとのCapital Gain Distributionsの見込みをアナウンスします(例、Vanguard )。仕組み上、ETFよりMutual FundでCapital Gain Distributionsが多くなる傾向があります。保有が大きいMutual Fundについては、注意しておいた方がいいでしょう。

また、Capital Gain Distributionsが出る直前に当該ファンドを購入することは避けた方が賢明です。保有期間にかかわらず、Capital Gain Distributionsが課税対象になってしまうからです。

以上のように、アメリカのキャピタル・ゲイン税制は複雑ですが、制度をよく理解した上でキャピタル・ゲイン/ロスの実現管理をすれば、節税につながり、運用成果を改善できる可能性があります。

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後藤浩 (Hiroshi Goto)

後藤浩 (Hiroshi Goto)

ライタープロフィール

Goto Financial Advisory LLC 代表
東京大学経済学部卒。早稲田大学大学院経営管理研究科修士(MBA)第一生命、PwC勤務後、年金基金向け運用コンサルタント、米系資産運用会社の執行役員など25年の資産運用業界経験を有する。2023年に在米日本人のためのフィナンシャル・プランニング法人、Goto Financial Advisory LLC設立。 リタイアメント・プランニングに役立つブログ多数掲載中。 2019年よりテネシー州在住。Sister City of Nashville 理事。資格:CFA協会認定証券アナリスト、米国税理士、認定ソーシャル・セキュリティ・アナリスト

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