3D(立体)プリンターを使った建物の建設が、世界中で始まっている。
■各種の素材で可能
ウォールストリート・ジャーナルによると、アラブ首長国連邦(UAE)のドバイ政府は、2030年までに全ての新築ビルの25%を3D印刷で作ることを目指している。また、中国、イタリア、ロシアなどでは、3D印刷による一戸建て住宅の試作品が登場。国際総合エンジニアリング企業のエイコム(AECOM、カリフォルニア州)は3D印刷で刑務所や病室を作っており、欧州の同業アラップ(Arup、英国) はコンクリートやステンレス鋼などさまざまな材料で3D印刷建築の実験をしている。
この技術はまだ新しいため、約10兆ドルに上る世界の建設市場への影響はなく、住宅危機の即時解決や建設コストの劇的縮小には直結しないが、エネルギー、素材、時間などを節約できる可能性が期待されている。
■美しく安上がり
ミラノの建築会社CLSアルキテッティ(CLS Architetti)の創設者マッシミリアーノ・ロカテリ氏は、3D印刷で1100平方フィートの一戸建て住宅を完成させ、4月15日に発表を予定している。同社はアラップおよび可動式コンクリート3Dプリンターを製造するオランダの新興企業サイビー(CyBe)と提携しており、サイビーのプリンターはデスクトップ型と同じ仕組みで、ロボットアームに装着されたプリントヘッドが回転して、コンクリートの層を重ねながら建物の構造を作っていく。層状のケーキや露出した堆積岩のようにも見える3D印刷建築の美しさに魅せられているロカテリ氏は、3D印刷で大きな建物の中に小売りスペースを作ることに関心があるという。
一方、慈善団体ピープル・ヘルピング・ピープル・オブ・エルサルバドルのリセロット・トロンコニス氏は、コスト、時間、労力の削減効果に注目する。エルサルバドルのスラム街に暮らす貧困層向けに住宅を提供するため、3Dプリンターを使いたいと考えている。
氏が関わる「エルサルバドル・オブ・ニューストーリー」プログラムでは、すでに従来型工法で世界中に800戸以上の住宅を建てており、現在コンクリートブロックの家は建設に約15日と6500ドルのコストがかかるが、3D印刷を使えば24時間で完成し、コストは4000ドルで、鉄筋も半分で済むと見ている。
■理屈は古代の家と同じ
建築家、技術者、建設会社に人気のソフトウェアを開発するオートデスク(Autodesk)のリック・ランデル上席ディレクターは「コンクリートの3D印刷は、基本的には古代からある建設技術を現代版だ。われわれの祖先は、世界中で土や日干しれんが、コブ(土とわらのかたまり)などを使って家の壁を作ってきた。その構造の多くは現代の3D印刷と共通しており、強く、安く、地元で調達できて廃棄物が少ない」と指摘する。
3D印刷に使われる素材はコンクリートだけではなく、フランスの大学研究チームはコンクリートと発泡スチロールで住宅を造り、スウェーデンや米国の研究家は、セルロースや草などを使った複合材で建物の建設に取り組んでいる。アムステルダムのMX3Dは3月、溶接装置付きのロボットアームで作った長さ12.5メートル、重さ約1万2000ポンドのステンレス製歩道橋を発表した。4台のロボットで片側から厚さ1ミリずつ層を重ねる「水平工法」で11カ月かけて完成させたが、10台のロボットを同時に使えば10日で完成するという。(U.S. Frontline News, Inc.社提供)
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