3連覇を狙うホットドッグ早食い女王
須藤美貴

文/金岡美佐(Text by Misa Kanaoka Seely)

7月4日の独立記念日といえば、花火とバーベキュー。その前に、ホットドッグの早食い大会を見るのが恒例になっている人も多いだろう。1972年からニューヨークのコニー・アイランドで開催されているネイサンズ・ホットドッグ早食い大会は、2001年から小林尊さんが6連覇を果たしこともあり、日本人にもなじみ深い。早食いをスポーツとみなすことに違和感があるかもしれないが、2004年からはスポーツ専門局のESPNが生中継を開始。毎年100万人を超す視聴者を集めている。従来は男女混合だったこの大会は、2011年から女子部門が別に設けられ、2014年には日本人を父に、アメリカ人を母に持つ28歳が女王の座に輝いた。2015年には2連覇達成。今年は3連覇を目指す須藤美貴さんに話を伺った。

 

2連覇を達成し、チャンピオンベルトを手にする須藤さん。練習風景はYouTubeのMiki Sudoページで閲覧可能だ。=写真は須藤美貴さん提供

2連覇を達成し、チャンピオンベルトを手にする須藤さん。練習風景はYouTubeのMiki Sudoページで閲覧可能だ。=写真は須藤美貴さん提供

早食いの素質は天性のもの

 子供の頃からとにかくよく食べた。ハワイに住んでいた12歳の頃、「友達と一日中サーフィンした後、マクドナルドでハンバーガー10個は平らげていた」という。早食いの素質があると気付いたのは2011年12月。ラスベガスのベトナム料理店で冗談半分で試した大食いチャレンジがきっかけだ。12ポンドのフォーを87分以内に食べ切れば、賞金がもらえるというもので、食べ切れなければ50ドルを支払わされる。友達には「無理だよ」と言われながらも、見事に完食。1510ドルの小切手を受け取った。早食いで初めて手にした賞金だ。同店では須藤さんが完食して以来、19人が挑戦し、一人も成功できていない。

 早食い大会に出場するようになったのはそれ以降。フルタイムでマーケティングの仕事をする傍ら、ラスベガスや近郊州で行われる大会へ出向いた。「怖くて食べれない」というザリガニ(Crawfish)以外は何でもござれ。餃子からタコス、チリ、チキンウィング、ポークリブ、ゆで卵、パンプキンパイまで、実に様々なネタを流し込んでは上位に食い込むようになった。そして2013年4月には、国内の主要早食い大会の主催者であるMajor League Eatingと契約。リーグに加入すれば、出場登録者が多い大きな大会でも優先的に出場が認められる上に、イベントに参加 すれば、出演料が支払われる特典も魅力だった。

 須藤さんはリーグ加入と同時に男女総合7位にランキング。6カ月後には4位へ浮上し、女子のトップランクに躍り出た。現時点では、2015年の独立記念日の大会の男子部門で優勝したマット・ストーニー、2007年に小林さんを破って初優勝後、8連覇を達成したジョーイ・チェスナットに続く総合3位につけている。ネイサンズを除き、早食い大会はすべて男女混合で、須藤さんは2015年11月、10分間で8.8ポンドのターキーを平らげ、あのチェスナットに0.4ポンド差をつけ優勝した。男女が同じ土俵で戦い、女子が男子に勝てる数少ない競技。「女子部門だから勝てたとは言われたくない」と須藤さんは胸を張る。

2015年9月のチキンウィング早食い大会ではチェスナットに次ぐ2位に。3位はトーマス(右)=写真は須藤美貴さん提供

2015年9月のチキンウィング早食い大会ではチェスナットに次ぐ2位に。3位はトーマス(右)=写真は須藤美貴さん提供

効率的で顔を汚さずに食べるテクニック

 他の選手と比べ、須藤さんの食べ方はクリーンだ。口の周りを汚すことがほとんどない。「きれいに食べた方が効率がいい」のだそうだ。ホットドッグ早食いの基本は、小林さんが考案した「ソロモン・メソッド」だ。パンから取り出したホットドッグを2つに割り、それを押し込んだ後、飲み物に浸して喉を通りやすくしたパンを流し込む。ソロモン・メソッドを応用している須藤さんは、ホットドッグ2本をパンから取り出し、4回噛んで喉へ押し込む。その後、2回ほど口を素早く右肩に近づけ、押し込んだ物が喉を下りやすくする。パンは小林さんと同様に飲み物に浸し、小さく押しつぶして1つずつ流し込む。10分間このリズムの繰り返しだ。口の中に詰まった物をくちゃくちゃ噛む選手もいるが、須藤さんに言わせれば、それは「時間のロス」なのだ。

 2連覇を狙った2015年のコニー・アイランドでは、このリズムが崩れた。初優勝した前年は、5月中旬から準備を始め、7回の予行演習を経て臨んだが、この年は2週間しか準備期間が取れなかった。準備期間中は、通常140ポンドある体重を125ポンドまで落とし、カーディオトレーニングを強化してスタミナと耐久力を上げる。普段はケールやキノアのサラダやグリルチキンなどを中心とした低カロリーの食生活をしているため、突然脂っこいものを大量に食べると、体がびっくりしてしまう。そのため、予行演習を何度か行って体を慣らすのだが、それが十分にできていなかった。「最初の1分が全然ダメで、もうあきらめようかと思った」という須藤さんは、お決まりの2本食いを1本へと減らして対処したが、その間に韓国生まれの初代女王ソニヤ・トーマスにリードを奪われた。しかし、ステージ上から自分を応援してくれる友人達の顔が見え、「19本目ぐらいからリズムに乗れるようになり、あとは自然にいけた」。

2015年ネイサンズの男子覇者マット・ストーニーと=写真は須藤美貴さん提供

2015年ネイサンズの男子覇者マット・ストーニーと=写真は須藤美貴さん提供

まずは3連覇と新記録達成を目指す

 須藤さんがプロのフードファイターに転向してから今年で4年目。プロとはいえ、早食い選手としての報酬だけで生計が成り立っているのは、チェスナットぐらいだと言われている。業界最大級の独立記念日の大会でさえ、賞金総額は4万ドルで、これを複数の出場者で山分けする。その他の大会は賞金総額が5千ドル前後のものが多く、須藤さんも含め、出場者はそれぞれ本職を持ち、「楽しみでやっている人がほとんど」だという。しかし、大きな大会で優勝し、知名度が上がると、集客力が武器になる。特に鍛えられた体に、ブロンドの髪とくっきりとした目鼻立ちが印象的な須藤さんは、これまで早食い競争界に欠けていた華やかさをもたらし、スポンサーから出場招待を受けることも少なくない。「旅行と食べることが大好き」という須藤さんにとって、これほど「おいしい」副業はない。

 将来はレストランを持つか、フードファイターのリアリティ番組やご当地グルメを紹介するテレビ番組に関わりたいという漠然とした夢を語る須藤さんだが、目前の目標は独立記念日に3連覇を果たすこと。初代女王のトーマスは須藤さんが2014年に王座を奪うまで3連覇を果たしており、「だから私は最低でも4回は優勝したい」と須藤さんは意気込んでいる。また、トーマスは2012年の大会で45本完食の女子最多記録も達成。2014年は34本、2015年は38本で優勝した須藤さんは、この記録も塗り替えたい。今年の独立記念日は花火やバーベキューに出かける前に、ぜひ須藤さんの活躍ぶりをチェックしてもらいたい。

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金岡美佐 (Misa Kanaoka Seely)

金岡美佐 (Misa Kanaoka Seely)

ライタープロフィール

シアトル郊外在住のフリーランス・スポーツライター。「スポーツは見て楽しむ」をモットーに一年中、プロ、大学、高校、男女問わず、色んな試合を見ては、映画やドラマでは得られない感動に浸っています。中でも一番好きなのは1992年に渡米してから面白さに目覚めたアメフト。スポーツとして、エンターテインメントとして、ビジネスとして話題が尽きないNFLに関する情報をwww.afnjapan.com@afnjapan)で発信中。野球、バスケ、サッカー、その他のスポーツに関してはツイッター(@MisaKSeely)でつぶやいています。

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