Vol.5 謎多き断崖絶壁の居住遺跡
メサ・ヴェルデ国立公園
− コロラド州 −

写真・文/齋藤春菜(Photo & Text by Haruna Saito)

世界遺産とは●
地球の生成と人類の歴史によって生み出され、未来へと受け継がれるべき人類共通の宝物としてユネスコの世界遺産条約に基づき登録された遺産。1972年のユネスコ総会で条約が採択され、1978年に第1号が選出された。2018年1月現在、167カ国で1073件(文化遺産832件、自然遺産206件、複合遺産35件)が登録されている。

ミュージアムの裏にあるSpruce Tree Houseは、もっとも保存状態の良い集落。1211〜1278年の間に建てられ、130の部屋と8つのキバがある

コロラド州の南西部にあるメサ・ヴェルデ国立公園では、アメリカ先住民が築いたとてもユニークな遺跡が見られる。断崖絶壁の窪みを利用して建てられた集合住宅跡は、異国のような不思議な光景。ここには西暦550〜1300年頃までの700年以上の間、古代プエブロの人々が定住していた。遺跡群の保存状態がとても良く、文明の存在を伝承する物証として希有な存在とされ、1978年に世界文化遺産に登録された。この年は、世界で初めて12件の遺産が登録された年だ。メサ・ヴェルデ国立公園は、記念すべき第1号の一つということになる。

さて、古代プエブロの人々がこの辺りに住み始めた頃、彼らは小さな竪穴住居で暮らしていた。その後、徐々に生活の知恵を絞って道具を進化させ、独自の文化を発展させていった。断崖絶壁に集合住宅を築き始めたのは西暦1100年代。敵からの防衛のためなのか、それとも宗教的な理由があるのか、彼らがなぜ断崖に集落を築いたのかはいまだ解明されていない。

公園内では約5000もの関連遺跡が保護されている。そのうち断崖の集落跡は600ほど。大きさはさまざまで、少人数のものもあれば120人ほど生活していた集落もある。まずはミュージアムへ。館内では、古代プエブロ人の文化の発展過程や建物の構造などがジオラマやパネルで解説されており、生活道具なども展示されている。

ミュージアムを出てすぐ裏側から見えるのが、谷を挟んだ反対側の断崖に残っている集落跡「Spruce Tree House」。園内でも3番目に大きな集落だそうで、60〜80人が暮らしていたとされる。少し離れた崖の窪みに穀物庫と思われる建物跡があるのだが、断崖の中ほどにあり、どうやってあそこへ行くのか首を捻るしかない。この集落の周りにはハイキングトレイルもいくつかあり、往復2時間ほどのトレイルで見られるペトログリフと呼ばれる壁面に刻まれた岩絵は圧巻。

公共施設として使われていたキバ。内部には空気を循環させる工夫も見られる

さらに公園の奥へ進むと、集落跡や関連遺跡が点在するメサ・トップ・ループとクリフ・パレス・ループがある。ループ名にもなっている「Cliff Palace」は最大規模の集落跡だ。幅約215フィートの敷地に並ぶ住居には150ほどの部屋があり、100〜120人の住人がいたという。

どの集落にも必ずあるのが、キバ(kiva)といわれる円形の建物。儀式や社交の場として使われた公共施設だそうだ。クリフ・パレスにはキバが21個もあり、高層住宅もあることから権力者たちが暮らしていたと考えられている。ガイドツアーに申し込めば、集落跡の中を歩くことも可能だ。

公園の南西には「Step House」「Long House」といった大きな集落跡もあるが、ここは5〜10月しか立ち入ることができず、ツアーチケットが必要な場合もあるのでご注意を。

断崖に突如現れるエキゾチックな石造りの集落跡。一目見れば、その不思議な光景に誰もが心惹かれることだろう。

ユッカと呼ばれるこの植物は、針や糸、筆などさまざまな用途に使われていたそう

遺産プロフィール
メサ・ヴェルデ国立公園
Mesa Verde National Park 

登録年 1978年
遺産種別 世界文化遺産
https://www.nps.gov/meve/index.htm

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齋藤春菜 (Haruna Saito)

齋藤春菜 (Haruna Saito)

ライタープロフィール

物流会社で営業職、出版社で旅行雑誌の編集職を経て渡米。思い立ったら国内外を問わずふらりと旅に出ては、その地の文化や人々、景色を写真に収めて歩く。世界遺産検定1級所持。

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