シリーズアメリカ再発見㉕
シカゴ名物球場アニバーサリー

文&写真/佐藤美玲(Text and photos by Mirei Sato)

© City of Chicago

© City of Chicago

 選手が入場するのと同じ、暗いトンネルを抜けて、フィールドへ出た。
 小さい。観客席との距離が近い。ぎゅっと詰まった感覚だ。
 それもそのはずで、収容人数6万7000人は、NFLのスタジアムとしては2番目に小さい。今や8万人は当たり前、10万人以上収容のスタジアムも増えているから、よけいに小じんまりと感じる。
 視界をさえぎるものがないので、どの席からも試合がよく見える。それがファンにとってはメリットだ。

 一方、席数が少ないので、ベアーズの試合は常にソールドアウト。なかなかチケットが手に入らない、というのがファンにはつらい。狭すぎるという理由で、おそらくスーパーボウルも開催できないだろう。
 ソルジャーフィールドは、オリジナルの神殿風建築を残しながら、2003年に改装された。この時、さらに一般の観客席を減らして、スイートをより多くつくったそうだ。スイートは、スタジアムの「ドル箱」だ。スイート1部屋で、一般席を1000枚売ったのと同じ収益があるという。

 今さらスポーツの商業化を嘆いても仕方がないけれど、熱烈なベアーズ・ファンには、スタジアム生観戦の機会がますます遠のいたのではないだろうか。

 幸運なことに私たちのツアーには、ベアーズの現役選手で、チーム史上最高のプレイスキッカーといわれるロビー・ゴールド選手が同行してくれていた。
 選手にとって、小さなスタジアムでプレーすることのメリットとデメリットは、なんだろう?
 そう聞くと、ゴールド選手は、「メリットは、敵チームのファンがほとんどいないこと」と即答した。
 「ロッカールームからフィールドへ続くトンネルを歩いている時、すでに、外にはベアーズのファンしかいないってことが分かるんだ。だから安心して出ていかれる。たとえばダラスのような大きなスタジアム(*カウボーイズの本拠地は10万人以上収容)で試合するのとは、すごく大きな違いだね」

 フィールドからは、青空の向こうにシカゴの高層ビル群がよく見える。晴天ならいいけれど、ドーム式ではないので、冬はまさに「吹きさらし」だ。すぐそばのレイク・ミシガンから、氷のような風が叩きつけるだろう。そんな中で冷たいビールを飲みながら応援するベアーズのファンは、タフで熱狂的という評判だ。
 以前、ベアーズのファンから、ソルジャーフィールドの上空には、渦巻きのような特別な風が吹いている、と聞かされたたことがあった。一体どんな風なのか。ゴールド選手に聞いてみたら、「そんな特別な風なんて吹いていないよ。見つけたら教えてよ」と、笑ってかえされてしまった。

 迷信やら超現象的なものを信じてしまうのは、熱狂的なファンだけなのかもしれない。実際にプレーする選手たちは意外に冷静なのだろう。(当たり前か?)

 とはいっても、「悪天候のことを、ベアー・ウェザーと呼ぶぐらいだからね。雹、雨、雪、竜巻…。すべてここで体験したよ」と、ゴールド選手。特に昨シーズン、12月にダラス・カウボーイズを迎えた試合では、気温がマイナス15度(華氏)にもなり、つらかったそうだ。
 天候などによって天然芝のコンディションもまちまちだから、キッカーにとってはかなり難しいスタジアムなのに違いない。そこで高い成功率を収め、チーム記録をつくっているのだから、すごい選手だ。

 それでも、シカゴのファンには、球場をドーム開閉式にするなどということは考えられないようだ。
 ガイドのマッケンナさんは、「屋外の、天然芝の上でやるのが本物のフットボール。それ以外は、軟弱者(wimp)だ」と言い切った。

 スタッフも軟弱ではない。みんながチームへの特別な愛情をもって働いている。試合に負けても、決して「lost」という言葉は使わない。「At the end of the game, score board met the negative result」。そう言って、また次の試合に備えるのだ。

1

2

3 4 5 6 7

この記事が気に入りましたか?

US FrontLineは毎日アメリカの最新情報を日本語でお届けします

関連記事

アメリカの移民法・ビザ
アメリカから日本への帰国
アメリカのビジネス
アメリカの人材採用

注目の記事

  1. 2024年10月4日

    大谷翔平選手の挑戦
    メジャーリーグ、野球ボール 8月23日、ロサンゼルスのドジャース球場は熱狂に包まれた。5万人...
  2. カナダのノバスコシア州に位置する「ジョギンズの化石崖群」には、約3 億5,000 万年前...
  3. 世界のゼロ・ウェイスト 私たち人類が一つしかないこの地球で安定して暮らし続けていくた...
  4. 2024年8月12日

    異文化同居
    Pepper ニューヨーク同様に、ここロサンゼルスも移民が人口の高い割合を占めているだろうと...
  5. 2024年6月14日、ニナが通うUCの卒業式が開催された。ニナは高校の頃の友人数名との旅行...
  6. ラブラドール半島のベルアイル海峡沿岸に位置するレッドベイには、16世紀に繁栄したバスク人による捕鯨...
  7. フェムケアの最新事情 Femcare(フェムケア)とは「Feminine」と「Car...
  8. 日本では、何においても横並びが良しとされる。小学校への進学時の年齢は決まっているし、学校を...
ページ上部へ戻る