第2回「ただ壊すってのは芸がない」

文&写真/小野アムスデン道子(Text and photos by Michiko Ono Amsden)

昔の小学校が今やパブ お仕置き部屋で葉巻を吸う

 そもそもアメリカの住宅の平均寿命は55年と日本の30年よりかなり長い。さらにポートランドと、東京に戻った時に住んでいる渋谷区のあたりでは、それこそ街並が違いすぎて一概に比較できないが、ポートランドの年数を経てがっちりした造りの一戸建て、古いレンガや石造りのビルからは、”いいモノを長く使うというポリシー“がぷんぷん香る。持続可能なエコシティを標榜するわがポートランドでは、建物をそう簡単には壊さない。小学校や教会、工場といった本来の目的はその用を終えた建物もちょっと”変わった“方法で再利用している。
 まず、世界一、街の中に地ビール醸造所(ブルワリー)が多いBeervana(ビアバーナ=ビールと涅槃の地ニルバーナを足した造語)であると自ら称するポートランドらしい再利用を紹介しよう。1985年にオレゴンで禁酒法後に最初のブルワリーパブをポートランドで開いたマイクとブライアンのマクメナミンズ兄弟。彼らが経営するMcMenaminsというブルワリーパブは、今や65店舗になるが、どれもこれも出自の変わった建物ばかり。1987年に作った最初のブルワリーパブである「Mission Theater and Pub」からして、元はスウェーデン教会で、今やアメリカ合衆国国家歴史登録財に登録されているという建物だ。もちろん今もシアターパブとして営業中。
 中でも出色なのが「Kennedy School」でその名の通り元は1912年築の小学校。学校名の書かれた真っ赤な看板に導かれて校内に入ると、校長室という名札がかかった案内のオフィスがあり、パブのほかにも教室はホテルルームに、講堂は映画館に、お仕置き部屋にいたっては今やシガー・ルームになっている。改装されているが、建物はほぼ元の通りで、アールデコ調の内装も1900年代初めの不思議な空間だ。ただ、建物をとり壊しから救うだけではなく新たな魅力を持つ施設へと見事に生かしている。

Photo © Michiko Ono Amsden

Photo © Michiko Ono Amsden

McMenamins Kennedy School
5736 NE 33rd Ave., Portland, OR
電話:503-249-3983
ウェブ:www.mcmenamins.com

5736 NE 33rd Ave Portland, OR

 

昔の百貨店は今ホテル 大空間を生かしてロビーに

 ダウンタウンのパイオニア・コート・スクエアに1909年から立つマイヤー&フランク・ビルディングは、元は同名の百貨店。ポートランドに住む人には今でも馴染みのある名百貨店だったが、2007年から2008年にかけて下層4階がメイシーズ、その上の9階がThe Ninesというラグジュアリーなホテルになった。改築から運営にいたるまで環境と資源に配慮したグリーンビルディングに対するアメリカの認証制度LEEDのシルバーにも格付けされている。天井高のあったビルディングの2階分という空間を吹き抜けにして、空港のラウンジをテーマにしたロビーにし、最上階にはグルメの街ポートランドでも評判の高いアジアン・フュージョンのレストランDepartureが入る。
 マイヤー&フランクだった時代を知っているだけに、最初はポートランドの象徴が消えたようで寂しかったが、今は洒落ておいしい料理を出すレストランから街全体を眺めることが出来る。店は、いつもお客でいっぱいだ。
古いモノを壊してしまうのではなくて、それを生かして新しい命を吹き込むこと。そのひとひねりあるやり方もポートランドのモテる秘密の一つだろう。

Photo © Michiko Ono Amsden

Photo © Michiko Ono Amsden

The Nines
525 SW Morrison St., Portland, OR
電話:877-229-9995
ウェブ:www.thenines.com

525 SW Morrison St Portland, OR
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小野アムスデン道子 (Michiko Ono Amsden)

小野アムスデン道子 (Michiko Ono Amsden)

ライタープロフィール

世界有数のトラベルガイドブック「ロンリープラネット日本語版」の編集を経て、フリーランスへ。東京とポートランドを行き来しつつ、世界あちこちにも飛ぶ。旅の楽しみ方を中心に食・文化・アートなどについて執筆、編集、翻訳多数。日本旅行作家協会会員。

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