第8回 「コイントスで決めた名前」

文&写真/小野アムスデン道子(Text and photos by Michiko Ono Amsden)

東海岸メイン州にある
もう一つのポートランド

 
 オレゴン州ポートランドのユニークぶりを紹介しているこの連載。今回は、この街の名前の意外な歴史について。アメリカでは、同じ由来で同名都市というのがままあって、代表格は首都であるワシントンDC(ワシントン、コロンビア特別行政地区)と北西部にあるワシントン州だろう。共にアメリカ合衆国初代大統領ジョージ・ワシントンに由来するので同じ名前が冠されている。こうした大統領などの人名由来はとても多く、ワシントン・ストリートやワシントン・アベニューなどはそれこそあちこちで見受けられる。
 さて、ポートランドも同じ名前の街が東海岸メイン州にある。メイン州はアメリカ北東部ニューイングランド地方6州のうちの一つ。1620年にピューリタン達が移住してきたアメリカでも最も古くから開拓された地方だ。そしてメイン州のポートランドは、州内で一番人口の多く、経済の中心地となる港湾都市である。私は、この夏に訪れる機会があったのだが、メイン州で有名なロブスター漁のボートが出港するオールドポート地区にはビクトリア様式の建物がよく保存されていて、歴史を感じる街並だ。というわけで、このメイン州のポートランドの方が古株。では、誰かこのポートランドの住民が西部開拓に出かけて、オレゴン州のポートランドが出来たのかというと、話はそんなに単純ではない。

レンガ造りのビクトリア様式の建物が並ぶメイン州ポートランドの街並み Photo © Michiko Ono Amsden

レンガ造りのビクトリア様式の建物が並ぶメイン州ポートランドの街並み
Photo © Michiko Ono Amsden


 

ひょっとしたらオレゴン州
ボストンだったかも

 
 オレゴン州のポートランドの街が開けたのは19世紀の半ば。土地の所有権を得たマサチューセッツ州”ボストン“出身のアサ・ラブジョイとメイン州”ポートランド“出身のフランシス・ペティグローブは、新しく出来たこの街にお互いの故郷の名前を付けたいと主張して譲らなかった。そして、その決定手段はなんと表か裏かのコイントス。1845年、ペティローブが3回中2回のコイントスで勝利したために、オレゴン州ポートランドになったのだ。このコイントスに使用された1835年に造られた硬貨は「ポートランド・ペニー」と呼ばれて、今でもポートランド市内にあるオレゴン歴史協会の博物館に収められている。もしラブジョイが勝っていたら、ここは西海岸のボストンになっていたことだろう。
 このコインは、ポートランドのダウンタウンにあるレストラン「ポートランド・ペニー・ダイナー」の看板にも掲げられている。ここは、料理界のアカデミー賞とも言われるジェームズ・ビアード(彼もポートランド出身のシェフ)賞を受けたヴィタリー・ペイリーがオーナー・シェフで、メインダイニングである「インペリアル」の隣に開いたお店。セレブリティシェフによる19世紀後半にあったランチワゴン(今のフードカートの原型)をコンセプトにしたカジュアルスタイルのアメリカ料理を楽しめる。この街の名前を決めたポートランド・ペニーは、ポートランドの人にとっても、古きよきアメリカの郷愁を感じさせる存在なのかも知れない。

名前を決めたポートランド・ペニーの表裏がクルクルと回るレストランの看板 Photo © Michiko Ono Amsden

名前を決めたポートランド・ペニーの表裏がクルクルと回るレストランの看板
Photo © Michiko Ono Amsden


  

オレゴン歴史協会
Oregon Historical Society
住所:1200 SW Park Ave, Portland, OR 97205
電話:503-222-1741
ウェブサイト:www.ohs.org


ポートランド・ペニー・ダイナー
Portland Penny Diner
住所:410 SW Broadway, Portland, OR 97204
電話:503-228-7224
ウェブサイト:www.imperialpdx.com/portland-penny-diner/

取材協力/Discover New England

Universal Mobile

この記事が気に入りましたか?

US FrontLineは毎日アメリカの最新情報を日本語でお届けします

小野アムスデン道子 (Michiko Ono Amsden)

小野アムスデン道子 (Michiko Ono Amsden)

ライタープロフィール

世界有数のトラベルガイドブック「ロンリープラネット日本語版」の編集を経て、フリーランスへ。東京とポートランドを行き来しつつ、世界あちこちにも飛ぶ。旅の楽しみ方を中心に食・文化・アートなどについて執筆、編集、翻訳多数。日本旅行作家協会会員。

この著者への感想・コメントはこちらから

Name / お名前*

Email*

Comment / 本文

この著者の最新の記事

関連記事

資格の学校TAC
アメリカの移民法・ビザ
アメリカから日本への帰国
アメリカのビジネス
アメリカの人材採用
Universal Mobile

注目の記事

  1. 2020年9月末、ニナは大学に入学する。彼女が進学先として選んだのはカリフォルニア大学(UC...
  2. 2020年10月2日

    豊かな日々を生きる
    「Live rich life」。ピート・ハミルの言葉である。2020年8月5日、彼は85歳...
  3. ケンタッキー州の西部に位置するマンモス・ケーブ国立公園は、複雑に絡み合った小道と大小さまざま...
  4. あなたの食生活は大丈夫? 「体が資本」という言葉がある通り、日々の食事は体の土台を作るための大...
  5. ステンレス製のお皿にライスが隠れるようにルーを全体にかけ、その上にトンカツ、そして付け合わせにはキャ...
  6. この原稿を書いているのは2020年6月12日。昨日、ニナの義務教育が終了した。オンラインでの...
  7. アラスカ州とカナダの国境地帯に広がるのは、世界最大規模の自然保護区。北米大陸最高峰の山々に世...
  8. コロナ禍の3カ月の自粛生活は、私たちそれぞれに、自分の忙しい生活を今一度振り返る良い機会とな...
ページ上部へ戻る