シリーズアメリカ再発見㉞
カメラで歩く絶景のシカゴ

文&写真/佐藤美玲(Text and photos by Mirei Sato)

 

ミレニアム・パークで野外イベントやコンサート会場となるジェイ・プリツカー・パビリオン Photo © Mirei Sato

ミレニアム・パークで野外イベントやコンサート会場となるジェイ・プリツカー・パビリオン
Photo © Mirei Sato

 実は私は「なんちゃってシカゴアン」で、何度も来ていると言いながら、真冬のシカゴには行ったことがない。元来寒がりなので、湖と川と高層ビルが生み出すシカゴならではの冷風のハーモニーは耐えがたく、春はもちろん初夏でさえ、厚着をして首をすくめて歩いてしまう。
 この日はラッキーな青空で、散策日和。本物のシカゴアンたちも、パークに出てきて太陽を楽しんでいる。

 「日本人はシカゴに魅力を感じない」とよく聞く。「ビジネスがらみで出張に行くことはあるんですけど……シカゴで観光って何があるんですか?」なんて真顔で聞かれたことも何度かあるのだが、私にはそういう心理はわからない。ジャズがある。ブルースがある。建築がある。アートがある。スポーツがある。食べ物がうまい。何もなくたっていい。ただ歩いているだけで、懐かしさがこみあげて、わくわくしてくる。シカゴなら、私はいつでも行きたい。真冬を除けば。

 ミレニアム・パーク周辺は何度も歩いたことがあるのに、カメラを片手に回ると、意外な発見がある。けっこう鳥が多いんだな、とか、いろいろ花が咲いているんだな、とか。知ったつもりのストリートでも、ちょっと裏へ回ったり、見回す角度を変えてみたりするだけで、意外な風景が見えてくる。
 テレサさんに連れられて、パークの中の小さなガーデンや、シカゴ美術館へ続く歩道橋を「発見」した。美術館も、正面玄関のライオンの像の前でなら何度も写真を撮ってきたけれど、屋上にテラスがあるのは知らなかった。

 ニューヨークのマンハッタンほどではないにしても、シカゴも「化粧直し」が進んで、ピカピカした新しいビルが増えてきた。少しずつ、重厚な建築が消えていくような気がする。

 そんな中で、美術館の向かいにある「文化センター」は古めかしさを保っている。1897年にできた建物で、南北戦争の北軍の会議場としても使われた。それを示すように、北軍が勝利をおさめた戦跡の名が壁に彫ってある。
 ティファニー製のステンドグラスのドーム天井があるのも有名だ。階下はビジターセンターになっており、入場は無料。由緒ある場所に、昼寝や暇つぶしの人がたむろできるのは、アメリカらしい贅沢さだと思う。

 もっと贅沢なのは、「シカゴ・グリーター」(Chicago Greeter)というプログラム。この文化センターを拠点に、シカゴの歴史を学んだりエスニックタウンを回ったりする無料ツアーが40種類ある。ボランティアがツアーガイドとしてついてくれる(10カ国語)。

ボランティアでツアーガイドをしてくれた坂善弘さん Photo © Mirei Sato

ボランティアでツアーガイドをしてくれた坂善弘さん
Photo © Mirei Sato

 私は運良くここで、日本語のガイドつきツアーに参加できた。案内してくれたのは、ダイドー・スチール・アメリカという会社で働いている、坂善弘さん。仕事も相当忙しいだろうに、休日にボランティアというのは頭が下がる。

 坂さんによると、シカゴが建築の街として知られるようになったのは、1871年に起きた「シカゴ大火」のおかげ。焼けて何もなくなったダウンタウンに、世界中から建築家がこぞってやってきて、当時としては斬新な建物をつくったそうだ。
 焼けた木材を埋め立ててつくったのが、ミュージアム・ディストリクト。水族館や博物館が、ミシガン湖畔へ伸びるように並んでいる。

 食肉加工、商取引の中心地として栄えたシカゴ。英語で、上げ相場をブル・マーケット、下げ相場をベア・マーケットと呼ぶ。偶然ながら両方とも地元のスポーツチームの名前になっている。

 そんなこんなシカゴの裏話を聞いている間にも、テレサさんは、文化センターの中のおもしろ撮影スポットを見つけては、手招きして教えてくれるのだった。

 


 

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