第35回 高校の卒業式

文&写真/福田恵子(Text and photo by Keiko Fukuda)

Photo © Keiko Fukuda

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 やっとこの日が迎えられた。というのが親としての正直な気持ちだった。6月中旬の某日、ノアが4年間通ったレドンドユニオン高校の卒業式に家族で出掛けてきた。家族と言っても、親戚一同が日本にいるので、父母である私たち夫婦とニナの3人。配布されたチケットは1人の生徒につき7枚。それでも義務教育の最後の晴れのセレモニーには親類縁者が集結するらしく、ノアの友達は「チケットが足りない」と言っていたそうだ。会場は高校のフットボールスタジアム。家族はホーム側とビジター側のスタンドに座って式を見守る。

 卒業式の数週間前から、高校から録音メッセージやメールが届き始めた。「我が校の卒業式は非常に厳粛な式典なので、鳴りものなどは持参しないように、テープもグラウンドに向けて投げないように」などと注意事項が満載。

 ところが式の1週間前、事件が起こった。高校からの録音メッセージで「今日、かなりの人数のシニアが建物の上階から水風船を落とした。危うくけが人が出るところだった。キャンパスの安全を脅かすような行為に対して、今回の件の参加者に対してグラジュエーションブレックファスト(シニア向けの卒業前のイベント)への出席を禁じる。式当日は全員が顔を揃えられるようにくれぐれも行いには気をつけること」。ドラマなどでも見かけそうな卒業前のおふざけだろうとは思ったが、けが人が出るところだったのなら穏やかではない。ノア自身はこの件に関与していなかったのでブレックファストには出席した。

炎天下、開放的なムードで

Photo © Keiko Fukuda

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 卒業式は平日の午後2時開始。私たちはゲートが開く12時45分には会場に到着し、グラウンドが見渡せる席に陣取った。待つこと1時間、校舎の方向からつながる坂を、卒業生たち580人が、グラウンドに向かって歩いてきた。スクールカラーは赤と白。男子生徒は赤いガウン、女子生徒は白いガウンを身につける。男女同じ色のガウンを着る高校が多いようで、友達にLINEで写真を送ったら「珍しいね。トランスジェンダーはどうするの?」と今どきな疑問を返してきた。

 式は2時間に及んだ。校長先生の挨拶、優秀な生徒の発表と挨拶、そして卒業生全員の名前が呼ばれて卒業証書が授与された。レドンドユニオン高校は1905年創立。今年で110年を迎える。市に一つしかない高校だが、以前はアビエーション高校という学校もあり、廃校となって2校が統合されて今に至る。観客席にはアビエーション高校の1965年卒業生(今から50年前)たちも招待されていた。彼らの家族が今年の卒業生にいるかもしれない。コミュニティーと学校がしっかりつながっているという実感が伝わった。

 校長のドクター・ウェズリーの挨拶でおおいに共感したのが次の言葉。「クラス・オブ・2015は私にとって特別な生徒たちです。なぜなら、私がアダムス中学の校長に就任した時、あなたたちはその中学に入学してきました。さらにあなたたちがこの高校に入学した時、私はこの高校の校長に就任したのです」。ウェズリー先生はノアとその同級生たちと7年間を過ごしてきたのだ。そして若き女性校長が強調していたのが、いかに自分たちの学校が学業とスポーツ両面で優秀な高校であるかということ。卒業生代表として紹介された生徒2名のうち、1人はUCLAに進学し、小児科医をめざすという女子生徒。もう1人は数学と科学、ピアノの天才でスタンフォード大学に進学するという。二人ともGPAが4・7だと発表されて、観客席はどよめいた。

 それにしても「鳴りもの禁止、テープ禁止」とあれだけアナウンスされたのに、一部の家族はまったく気にせず紙吹雪をばらまいていた。さすがカリフォルニア。しかし、青空の下の卒業式がいくら開放的でカリフォルニアらしいと言っても、途中で失神して担架で運び出された家族もいた。

 さて、式自体は滞りなく終了し、観客席から一斉にグラウンドに家族がなだれ込んで、我が子と感激の再会。いろんな思いが去来して号泣してしまうのではないかと式前には思っていたが、高校を出てからが大変だと頭がすぐにスイッチしてしまい、涙は出なかった。しかも何と言っても暑過ぎた…。

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福田恵子 (Keiko Fukuda)

福田恵子 (Keiko Fukuda)

ライタープロフィール

東京の情報出版社勤務を経て1992年渡米。同年より在米日本語雑誌の編集職を2003年まで務める。独立してフリーライターとなってからは、人物インタビュー、アメリカ事情を中心に日米の雑誌に寄稿。執筆業の他にもコーディネーション、翻訳、ローカライゼーション、市場調査、在米日系企業の広報のアウトソーシングなどを手掛けながら母親業にも奮闘中。モットーは入社式で女性取締役のスピーチにあった「ビジネスにマイペースは許されない」。慌ただしく東奔西走する日々を続け、気づけば業界経験30年。

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