WNBAに新たな日本人選手が誕生
シアトル・ストームの渡嘉敷来夢

文&写真/金岡美佐(Text and photos by Misa Kanaoka Seely)

開幕前のメディアデーでは日米メディアからの質問に応じた Photo © Misa Kanaoka Seely

開幕前のメディアデーでは日米メディアからの質問に応じた
Photo © Misa Kanaoka Seely

 今年、WNBAに3人目の日本人選手が誕生した。6月6日、シアトル・ストームの開幕戦でデビューした渡嘉敷来夢選手だ。191㎝という日本人離れしたサイズと高い運動能力が武器の24歳。JX-ENEOSサンフラワーズの主力としてチームの7連覇に貢献した今季は、得点、リバウンド、ブロックショットとフィールドゴール成功率でWリーグトップ成績を残し、レギュラーシーズンとプレーオフの両方でMVP受賞。日本国内で頂点を極めた今、WNBAの大舞台で世界のトップ選手としのぎを削りながら、自身の可能性を追求する。

日本では得られない経験

 5月現在の女子バスケ日本代表の平均身長は176㎝。日本国内で渡嘉敷選手の高さがいかに飛び抜けているかは、容易に想像がつくだろう。ゴール付近に立ち、パスをもらえば、シュートが決まる。「日本では高さがあるだけという部分もあったので、そうじゃないぞというのを、アメリカの地で見せたい」と、アメリカ修行への意気込みを見せる。WNBAでは高さだけでは通用しない。同じ高さの選手を相手に、どうプレーすべきか?「そういう勉強は日本ではできないこと。そこを一番楽しみにしています」と期待に胸が膨らむ。

 練習に参加してみて驚いたのは体の当たりの強さだ。スピードで劣る選手にも、強さで吹き飛ばされることもある。日本では自分より小さい選手にぶつかると、オフェンスファウルを取られがちで、遠慮していた部分もあった。しかし、ストームのコーチからは「もっと思いっきりぶつかっていい」と言われた。ストームではパワーフォーワードの中でもいわゆる「ストレッチ・フォー」と呼ばれる役割を与えられ、ゴール付近でプレーするのみならず、外からの3ポイントシュートも狙う。新しい自分を見つけるチャンスと心を躍らせるが、日本で求められる役割についても、目で見て吸収する努力は怠らない。

プレシーズン戦前のウォームアップ Photo © Misa Kanaoka Seely

プレシーズン戦前のウォームアップ
Photo © Misa Kanaoka Seely

元選手の代理人がチームにアピール

 ストームと契約するにあたり、大きな役割を果たしたのは代理人のティーシャ・ペニチェロだ。ティーシャは15年間WNBAでプレー。サクラメント・モナークスに所属していた2005年にリーグ優勝を果たし、オールスター戦には4回選出。キャリア通算2599アシストや1試合10スティールはWNBA最多記録となるなど、輝かしい経歴を誇る。その彼女の元へ今年2月、元フェニックス・マーキュリーの監督コーリー・ゲインズから、ある日本人選手の契約先を探して欲しいとの依頼が来た。ティーシャは渡嘉敷選手のことだとすぐに分かったという。「あの身長で、あれだけのスピードがある選手はなかなかいない」と、2014年に視察した世界選手権で一目を置いていたからだ。

 2012年までWNBAでプレーしていたティーシャは、監督の好みやチームの補強ニーズに照らし合わせ、ストームやコネティカット・サン、ロサンゼルス・スパークスなどに渡嘉敷選手との契約を打診した。その中で最も反応が早かったのがストームだった。ジェニー・ブーセック監督はティーシャから話があるまで、渡嘉敷選手のことは知らなかったそうだが、長年WNBAで活躍した彼女の選手を見る目を信頼しており、奨められるまま渡嘉敷選手のプレー映像を見た結果、契約を提示することになった。しかし、4月の契約発表時点ではロスター枠は保証されておらず、トレーニングキャンプで実力を発揮後、晴れて正式にチームの一員になれた。「やっとスタートラインに立てたという感じ」と決して気を緩ませない渡嘉敷選手のことを、ブーセック監督は「教えたくても教えようがない『It Factor』を持っている」と高く評価している。

大勢に支えられながらのWNBAデビュー

 渡嘉敷選手のWNBAデビュー戦には、サンフラワーズのコーチ陣やチームメイトもはるばる日本から応援に駆けつけた。開幕ロスターが発表されたのは6月4日。開幕戦はそのわずか2日後だった。1年前の開幕戦はキーアリーナの客席から見ていたという渡嘉敷選手だが、今年はコートサイドから大勢の仲間に見守られながらコートに立った。その中には、チーム探しや契約交渉上、ティーシャとの窓口になってくれたトム・ホーバス・アソシエートヘッドコーチや、ティーシャにチーム探しを依頼してくれたゲインズ氏の姿もあった。両氏とも元NBA選手。ゲインズ氏は渡嘉敷選手のサンフラワーズでの先輩にあたる大神雄子選手がマーキュリーに加入した当時、チームの監督を務めていた人で、母親は日本人。5月末にはNBAフェニックス・サンズのアシスタントコーチに就任したばかりだ。

6月6日ロサンゼルス・スパークスとの開幕 Photo © Misa Kanaoka Seely

6月6日ロサンゼルス・スパークスとの開幕
Photo © Misa Kanaoka Seely

 渡嘉敷選手にはさらに心強い助っ人がいる。全国優勝を果たした桜花学園高校時代のチームメイト、大西ムーア・ダイアンが通訳として付いているのだ。アメリカ人の父と日本人の母を持つダイアンは完璧なバイリンガル。高校卒業後はハワイ大学でバスケ選手として活躍し、素人には難解なバスケ専門用語もお手の物だ。何でも話せ、気を使わない仲というダイアンは、渡嘉敷選手にとって自主練習の相手にも、英会話の先生にもなってくれている。これはストームではなく、サンフラワーズの配慮によるものだそうだ。

開幕戦は最初の一歩

 ベンチスタートで迎えた開幕戦、第1クォーター途中から出場した渡嘉敷選手は、最初に打ったシュートがエアボールに終わり、ターンオーバーも献上してしまうなど、動きに硬さが目立った。しかし、試合が進むにつれ、本来のプレーを見せ始め、約20分の出場で6得点、1リバウンド、2ブロックショット。記念すべきWNBAデビュー戦を白星で飾った。ロッカールームでは、チームオーナーの一人であるリサ・ブルメルと豪快なハイタッチ。その後、この試合では今までのどの試合よりも緊張し、「ベンチでも吐きそうになった」と明かした。

 何しろWNBA初の公式戦で、シュートを打つべきか、ドライブに出るべきか、かなり迷いがあったというが、収穫も多かった。序盤、オフェンスではシュートが決まらず苦しんだ間、ディフェンスではブロックショットで失点を防ぎ、リズムを取り直した。試合後半は敵の体の当たりが激しくなったが、スピードでかわしてファウルを誘発し、フリースローで得点につなぐことができた。「次は今日以上に緊張することはないと思う」と苦笑を見せる渡嘉敷選手には、自分もこの舞台で互角に戦っていけるという自信も伺える。そんな渡嘉敷選手の勇姿を見たい方は、この夏ぜひストームの試合へ。

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金岡美佐 (Misa Kanaoka Seely)

金岡美佐 (Misa Kanaoka Seely)

ライタープロフィール

シアトル郊外在住のフリーランス・スポーツライター。「スポーツは見て楽しむ」をモットーに一年中、プロ、大学、高校、男女問わず、色んな試合を見ては、映画やドラマでは得られない感動に浸っています。中でも一番好きなのは1992年に渡米してから面白さに目覚めたアメフト。スポーツとして、エンターテインメントとして、ビジネスとして話題が尽きないNFLに関する情報をwww.afnjapan.com@afnjapan)で発信中。野球、バスケ、サッカー、その他のスポーツに関してはツイッター(@MisaKSeely)でつぶやいています。

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